タナトす。

上野駅で階段を降りていたら、突如足の曲げ方を忘れてしまい、階段の中ほどで片足だけをぴいんと伸ばして静止してしまった。たぶんこれはあれと同じだ。

どんなに親しい友人の顔でも、まじまじと見ているとその顔が誰なのか分からなくなる。最初は正常に認識する部分は残っていて、「いや、こいつはキャシー中島だから!」というツッコミを絶えず続けるのだが、自分の背中の裏側だけが勝手にぐんぐん膨張するような違和感が襲う。しまいには、「キャシー中島?はて?」と思考停止が訪れる。

さらに見続けているとその顔のパーツが分離されて「何これ?」となってくる。「いやいや、これは鼻だから」と指摘する自らのバランス感覚も次第に崩れてきて、鼻を見て、鼻と認識しようと頑張るのに、「鼻かあ」と何か他人事のような思考しか頭に浮かばなくなってくる。

それと同じなんだと思う。足を曲げる。うん、これはこうやるんだよね、というのは片隅で分かっていても他人事のような気がして、それを実際に自分の足に伝えられない。

こういった現象は子供の頃に多く、成長するにつれなくなっていったが、最近またとみに増えだしてきている。何故かは分からないが、その頻度は増えるばかりだ。

子供の頃は「どうやって俺って息をしてたんだっけ?」という観念にとらわれて息苦しくなる状態がしょっちゅう訪れてきていたが、これが今、また訪れないように祈るばかりである。

なんせ、今日の私は階段の途中で1分くらい立ち止まったままだったからだ。

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いや、そんなこと言い出したら、それ以外にもいろんなことで死にそうだ。

「あれ?おしっこってどうやって出すんだっけ?」と思考停止して膀胱破裂で死亡

「あれ?タバコってどうやって消すんだっけ?」と思考停止して焼死。

「あれ?寒いときってどうすればいいんだっけ?」と思考停止して、北海道でホッケをにぎりしめながら凍死。

まこと生きていくのは難しいと言わざるを得ない。

なお、便秘の人も、「あれ?うんこってどうやるんだっけ?」と思考停止している状態なので、いずれ耄碌してくるとふん詰まりで死にます。


ゴルメ・サブジ

先日、謎の缶詰「ゴルメ・サブジ」を買ったと書きましたが、本日、ようやく度胸を出して缶を開けてみることにしました。あけた途端に羊水にまみれた高橋尚子似の獰猛な小動物がキシャーと出てきて、のど笛を食いちぎられないかとドキドキでしたが、まずそれ以前に問題がありました。

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缶きりを差し込むところがありません。端っこに缶きりをかけても刃のあたるところは鉄のフチで、穴すら開かない。一瞬途方に暮れましたが、ふた部分にズボッと刃を差し込むと紙切れのように缶が開きました。

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どうやら高橋尚子似の小動物はいないようですが、中身はやっぱり沼です。

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皿に移してみました。緑色の小片がこびりついて、非常に気持ち悪いですが、味は煮詰めたパセリという感じで意外にいけました。肉は何肉か結局分かりませんでしたが、匿名的な「肉」という味でなかなかいけました。

肩透かしでしたので、ふてくされて寝ることにします。本日のコラムも肩透かしですので、皆様もふてくされて寝ていただけると幸いです。おあいこです。

これは私が大学院で心理学を研究している時に提唱した、おあいこ療法の一端です。


私のホッケ

広島にはホッケという魚を食う文化はなかった。少なくとも私の高校生までの食生活の中にはその「ホッケ」という言葉すら頭の中に無い。姉と二人暮らしの食卓はいつも冷静で淡々として、平坦だった。

時は過ぎ、大学に入った。

バンドのサークルの新人歓迎会で養老の瀧に行く。東京に来て初めての飲み屋。私がおどおどしながら座った隣には3年生のYさんという得体の知れない男性が座っている。細身にベルボトムのジーンズ。おかっぱ頭。その容貌以上に気になるのはひどい空気感。毒気に当てられたように何も出来ない磁場みたいなものがこの人の周りには張り巡らされていた。私は座ってから一言も話すことができず、また、Yさんも誰とも話さず、ぷかりとケントマイルドをくゆらしている。

注文は?

どよりとした空間を切り裂くように入り口付近の先輩から明るく問いが飛んだ。Yさんはゆっくりと入り口の先輩に向きなおし、静かに一言、こう言い放った。

「ホッケ。」

何。そのスポーツ然とした単語。

動揺する私。再びケントマイルドをふかすYさん。「何ですかそのホッケというものは」1つの話題のきっかけとなるその言葉がのど元でつかえて出ない。そうこうしているうちに飲み物が届き、料理が徐々にそろい始める。おたがい無言のまま時間が過ぎる。

私たちの周りだけとろみのある時間でよどんでいると、亀井静香似の女性店員が皿を持ってやってきた。

「お待たせしました。ホッケです」

彼女が持ってきたその皿には、開かれた大きな魚が乗っていた。これがホッケ。「ホッケってこんなんなんですね」2つ目の話題のきっかけとなる言葉がやはり口から出てこない。しんとした澱のようなものが胃の奥底に沈んで体が重い。動けない。

飲み慣れない生ビールをぐいと飲む。OASISの話で盛り上がる周囲の楽しそうな声に混ざる自分ののど元のウグウグ。Yさんはほっけの大根おろしに醤油をかけ、身をもぎりとる。口に運びながら私のほうを向き一言こう言った。

「最近どうですか。」

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この後、私はこの人の主宰するバンドのメンバーとなり、シャウトを担当することとなる。


僕らは毎日飲み屋で大量に消費されるホッケという魚の本当の形を知らない。

行きつけの水タバコの店(といっても水タバコの店なんて都内でその店くらいしか知らないけど)に行ったら、商品棚に「ゴルメ・サブジ」という缶詰があった。

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よくわからない。商品写真はどう見ても毒の沼地にしか見えない。贔屓目に見ても「毒の」が取れるくらいで、やっぱ沼だ。材料の表記を見ても「meat」としか書いていない。meatって何肉だ。
店の説明書きには「イラン人はみんな大好き!」とシンプルながら力強いメッセージが書いてある。イラン人、沼が好きなのか。なんなんだ。ゴルメ・サブジ。深まる謎。

一緒に行った友人と相談した結果、以下のようなものであろうと推測した。

ゴルメ・サブジはたぶん生き物である。そして強い。普段は地中に埋まっていて、たまに畑から「ゴルメー!」という奇怪な鳴き声をあげながら顔を出す。その顔は非常に不気味で、幾分高橋尚子に似ているが、らんらんと目が輝いている。手には鋭い鉤爪がついていて、尾びれから毒汁を出す。

羊飼いの少年がいっつも「ゴルメ・サブジがくるぞー!」とウソをついていたから、本当にゴルメ・サブジが来たときに誰も信じてくれなくて村は全滅するのだ。

すごい。ゴルメ・サブジ。そんなのを食材にしてしまうイラン人もすごい。

毒汁出す生き物なんて食べられないけど、畏敬の念を込めて買ってしまいました。食べる気はない。


趣味は料理です。

電機髭剃りに残った粉状のヒゲを焼くと、背徳感たっぷりの香りが漂ってきます。おためしあれ!

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久しぶりに料理ページを更新しました。ポップな味付けにしておりますのでよろしくお願いいたします。

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よろしくお願いいたします。


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