地球のがっかりしかた
第2回 夢見るピラミッド
ピラミッドに祈りを。

神秘の象徴としてのピラミッド。

現在では壁面の劣化が起き、また真向かいにケンタッキーフライドチキンが出来るなど、その姿を堕としてきてはいるものの、その黄金比や、巨大なその姿は見るものを圧倒させる。

見たこともない当時の製作者たちの熱にうかされたような感情の残滓は、数千年を経た我々の気持ちも昂ぶらせる。まだまだ神秘の象徴なのである。

さて、このピラミッド。日本にもあるというのはご存知だろうか。

広島県の北に位置する庄原市。この田舎町には「日本ピラミッド」というものがある。(私事ではあるが、この町は私が生まれ育った町である。)

「日本」「ピラミッド」。この胡散臭い名前は勝手に誰かがそう呼んでいるだけでなく、庄原市は自らの観光資源としてしっかりと認めている。ただ、その存在は非常に地味で、市の観光情報のすみっこに追いやられている。さらに言うなら、庄原市の住人のほとんどは、この日本ピラミッドがどのような実体を持っているか知らない。

なぜだ。ピラミッドなのに。ピラミッドっていったらあれだろ?すごくいいじゃないか。尖ってるし。三角だし。しかもそれが手の届くほど近くにあるんだぞ。そんな魅力をもっている日本にあるピラミッドなのに全く人気がない。神秘だ。

だったら、実際行ってその神秘性を確認してみようじゃないか。がっかりしてもいい。たくましく育って欲しい(自分が)。そんな探訪記である。どうぞ。

文責:四万十川篤彦


■日本ピラミッドって実のところ、なんなんですか。

広島県庄原市に位置する標高815Mの「葦獄山」。これが日本ピラミッドである。建造物ではなく、山とはまたスケールがでかい。

時はさかのぼること昭和初期。古代史研究家酒井勝軍は政府の通訳として行ったエジプトでピラミッドを見たときに、これ、絶対日本にもあるよ!と思ったそうだ。帰国してからの数年間探しあるいたところ、

・どこから見ても正三角形に見える
・山頂付近に大きな岩がある

といった理由から、この葦獄山がそれだ!と確信し、学会に発表したらしい。こんなゆるい条件だと世界中にいくらでもピラミッドがありそうに感じられるが、それは本当にその通りで、この酒井勝軍はこの葦獄山以外にも青森県の大石神、岩手県の五葉山など様々なピラミッドを世に発表している。

なんだよ。唯一じゃなかったのか。神秘性を高めるにはレア度が必要。そんな当たり前の事実をこの酒井氏はご存じなかったのか。庄原市のピラミッドは日本第一号ピラミッドである。その点だけを拠り所とするしかないのか。

事前の調べ物で強いがっかり感に打ちのめされるも、そこで固まっていては何も始まらない。行こうよ。いいから。


■まあ、とりあえず行ってみようじゃないか。

中国自動車道庄原インターから車を走らせること20分。周囲に日本ピラミッド関連の看板が多くなってくる。



どうやら、ハイキングコースとしてポピュラーな存在のようである。



野菜直売所と全く同列に並べられるピラミッド。トマトがかわいい。が、ピラミッドはただの緑三角だ。ここにもピラミッドへの冷たい感情が顕在化している。

「ようこそ」というくらいだからピラミッドに近づいてきたのだろう。外を注意しながら車を運転する。

しかし何の変哲もない道が続き、一向にどれがピラミッドなのか分からない。

←これか?三角だし!

と思って様々な山を撮ったが、大体の山は三角だ。そういう意味で、世界の山々はみんなピラミッドと名乗ったほうがいいんじゃないだろうか。

さらに道路標識に従って歩みを進めると、周りには木と草以外何も見えなくなり、うっそうとした山道が続く。

こんなところにピラミッドなんてあるのか。そんな疑念が徐々に強くなってくる。ピラミッドどころかケンタッキーフライドチキンすらないんじゃないか。

あのおいしい鳥の皮がたべられないなんて!なんて場所だ!

と考えていると、突如山道がパッと開け、石碑が現れた。

■ 着いた?
「念ずれば花ひらく」と書いてある。
左下の文字がよく判読できないが、なんとなく「魚民」と書いてあるような気がする。

念ずれ!魚民!

そもそもピラミッドに何を念ずるというのだろうか。寺の周りにある池など、必ず小銭が沈んでいるものだが、このような「とりあえず祈っとけ」といった節操の無い精神には非常に平伏したくなる。私もとりあえずモンテローザグループの繁栄を祈りながら、先に進むことにする。




登るな!って感じの山道。山頂まで1600m。ここからは歩きだ。

どうやら、私は既にピラミッドのふもとまで来てしまったようだ。しかし、ここに来るまで結局日本ピラミッドの全容は全く見渡せなかった。がっかりだ。

しかしこれは本物のピラミッドではできない体験だ。本物のピラミッドでこれをやろうとすると、目隠しをしてピラミッド内に入らなくてはならない。それは非常に実現の難しい体験となってしまう。そういう意味では非常に得がたい体験を自然と出来てしまっているということになる。そういう意味では万歳である。日本ピラミッド。

後ほど地元の人に聞いたところ、この日本ピラミッドの全容を綺麗に眺められるところなどほとんどないらしい。「隣の山の木々の間から眺める」とか、そういったことをしなくてはいけないのだ。がっかりだ。

そうは言っても、だから日本ピラミッドでどんなのなのよ!という方もいらっしゃるだろう。
そう思って頑張って拝借しました!
■これが日本ピラミッドだ!


三角だぞ!


いいぞ!三角だぞ!
(拝借元 ピラミッドの風景写真様)

三角でした。

まあ、ピラミッドと言われればそうかもしれないが、「山だよね」と言われれば、「うん、そうだよね」と回答するような三角。これなら昔の牛乳パックのほうがピラミッドではないのか。そんな疑念も生まれる。

しかし、この日本ピラミッド。ピラミッドとして神秘視されるのは、ただ三角であることだけが理由ではない。最初に述べたように、頂上付近に謎の巨石群が存在するのである。

古代の人が儀式に使用していたとされる巨石群。それらがあることが、この山を神秘視し、神のように奉っていたことの証拠となるそうだ。そもそもピラミッドの頂上には巨石などなかったような気もするが(ピラミッドそのものが巨石だが)まあいいじゃないか。

では、その巨石群とやらを見に行ってみよう。
巨石群を見に行く!

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文責:四万十川篤彦(Web冷え汁)