物語(仮) その5

冷蔵庫の緩んだねじを締め上げると、それは腕時計に付いているような竜頭になり、そこで冷気の出とカルシウム感を調節できるのだ、と彼は言ったものの、私にはそれを実行する気はさらさらなかった。

お前は冷蔵庫がどうやって動くかは知っているか?と彼に問われたものの、何と答えたものか考えあぐねていると、私の目の前にある冷蔵庫はまるで天井に重力があるみたいに飛び上がり、ぐちゃりとつぶれた。

私はあまり血はみたくないのだよな、と思ったのだけど。


物語(仮) その4

キンキンに冷えた水を持ってこいと言われたので、彼はコップに入れた水をゆっくりと揺らした。ごろりごろりと音を立てながら水の表面は徐々にそのパースを狂わせていって、最後にはそのフチあたりからキンキン、と音が鳴った。

それを見ていたカエルはその失楽園について語り、最後には果ててしまった。


物語(仮) その3

シャツでの尻拭いというのは滅法骨の折れる作業であり、シャツはただひたすらに、僕の尻ではなく、よそのほうを向いて髪の毛を逆立てているだけなのだ。

友人の正二を呼ぶと「シャツはダメだね」と一言。よく見ると彼のタンクトップは尻のところまで伸びていて、ゆるやかに上下しているのだった。


物語(仮) その2

すっと冷蔵庫の扉を開けると、その中には冷蔵庫がよく眠っていて、僕はその眠りを覚ましてやる勇気もなく、扉を閉めるとうわあという声がしたので、自分の背中が二重になってしまった。


物語(仮) その1 

ある夜、扉を開けると私の眼窩のすぐ近くに粉っぽい黄色の光が浮かび、それがするり、するりと形をなしていった。

眼前に出来上がったのはひとつの冷蔵庫だった。冷蔵庫は見る見る間に丸く太り、醜い女性然とした肉の塊となったので、私はその冷蔵庫の手を取り、蹴飛ばして扉の外へと追い出した。冷蔵庫は憮然とした表情で僕をみると、パチンと指を鳴らした。そこで扉は閉まりあたりは真っ暗闇に覆われた。


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