新宿駅のみどりの窓口前ですれ違った外国人。
ピンク色のストックを1本だけ持って、誰かと携帯電話で話していた。日常がとろりと歪む瞬間。
なんなんだ。この理解しがたい事態は。今はまだ秋だ。日本では初雪も降ったか降ってないかだ。いやいや、そもそも冬だからといってストックを一本持ってたたずんでいる外国人がいたらおかしいだろう。
頭の中が不安に淀む。その不安を解消するため、冷静に考えてみる。俺には理性がある。
第1案:彼はストックが好きなのだ。
だからいつでもストックを持っている。みどりの窓口で新幹線の指定席券を買うときでも、お風呂に入るときでも肌身離さず持ち歩いているのだ。うん、それなら新宿駅でストックを一本だけ持っていても不思議じゃない。
いつも口をついて出てくる言葉、「ストック大好き」。
いや、待て。「ストック大好き」って尋常な事態ではない。
不安を解消しようと思って理由付けをしたが、逆に不気味な人間像を作り出してしまった。なんてことだ。
もっと自然な案を考える。「ストック大好き」なんて妙な趣味を持つ人間像をつくりださなければいいのだ。
第2案:ストックを1本だけ持たざるを得ない状況に追い込まれた。
仕方なくストックを一本だけ持たされた。この理由ならば、彼が「ストック大好き」なんて不自然な言葉を発さなくてすむ。
彼にストックを持たせたヤツは誰だよ。そもそもストックを1本だけ人に持たせるやつがいるほうがおかしくないか。そう憤る向きもあろうが、そこに関しては古来よりの伝統の解決方法がある。
これは「妖怪ストック持たせ」の仕業であります。
万事解決。私は安心して電車の旅を進めることができる。