煮込むのが好きだ。グツグツという音。徐々に旨みが溶け出していく感じ。白濁していく液体。かき混ぜるとふわっと素材がない交ぜになった香りが漂う。波打つ表面の視覚的効果も忘れてはならないだろう。
シチューにポトフ、カレーに味噌煮込み、果ては得体の知れない汁。もちろん食べるとうまいから作っているのだが、どちらかというと、作るために作っている感は否めない。
このままでは煮込み道楽に没頭してしまいやしないかと不安である。私のひい爺さんは「豆腐を食って家をつぶした」ということで対外的に有名だったのだが、それと同様に「あそこの息子さんは何でも煮込んで家をつぶしたらしいですよ。なんでも電話の子機とタッパーとK1戦士を一緒に煮込んだとか」
などと言われてしまうと死んでも死にきれない。どちらかというと、安らかに死にたい。
昔、ヨーロッパのとある王様が十字軍の遠征中に死んでしまった。すると、配下は王の死体をやおら巨大な鍋に放り入れ、大量の湯で煮込んだ。肉がスープにとけてしまうまで。そして、残った骨だけを祖国に持ち帰ったそうだ。死体を持ち帰ってしまうと途中で腐ってしまうと考えたからだろうか?
いずれにせよ死後、煮込まれるというのはなかなか素敵だ。煮てもらえるなら安らかに死ねる。海葬がもてはやされる昨今。新たに煮葬(にそう)というのを提案したい。もちろん尼僧に煮てもらう。「尼僧の煮葬」なんて最高のキャッチコピーまで出来てしまった。いける。
いや、ビジネスの話にまで話が広がってしまったし、非常にいやな話になってしまった。閑話休題。
とにかく、煮込むのは好きだ。中でも私が最も好きなのはラーメンである。骨を煮る。豚の暴力的な香りが部屋に充満し、におうだけでおなか一杯になる。とろみを帯びてくる液体。無駄におたまで掬い上げて音をたてつつこぼす。トポトポと静かな音がする。静かな高揚感に胸がうずく。
その悦びをお伝えするために、3年前のある1日、ラーメンを作った体験記を再構成してお届けします。使い古しで申し訳ありませんが(申し訳ないついでに、以下より敬語でお送りいたします。)どうぞよろしくお願いいたします。
やっぱり作るんだったら、濃厚なものが作りたい。そこでモデルとなったのが東京近郊では有名な「ラーメン二郎」です。
右の写真がそれですが、いやあ、健康に悪そうですねえ。表面は1cmくらいが脂の層で、麺は通常のラーメンの2倍程度。早く死にたい人、緩慢に自殺したい人にピッタリなラーメンですね。
このラーメン二郎になるべく近づけるよう、以下のように目標とする特徴を挙げてみました。1.こってり背脂
これらを全て満たせばおそらく似たものが作れると思います。ポジティブシンキングです。
2.ほどよい豚くささ
3.味付けはしょっぱく甘く。
4.具はキャベツともやし、そして豚。
5.にんにくみじん切りをのせる。
さて、スープです。元がおおざっぱですから、こちらも思い切ってやっちゃいましょう。
シンプルにこれだけとなります。材料費はしめて1500円くらいでしょうか。(ほとんどが豚バラの価格です)
- 豚骨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2kg
- 背脂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1kg (少し多いかも)
- 豚のばら肉ブロック・・・・・・・1kg
- たまねぎ・・・・・・・・・・・・・・・・半個
- ねぎの上部分・・・・・・・・・・・・2つくらい
- しょうが・・・・・・・・・・・・・・・・・ひとかけら
- にんにく・・・・・・・・・・・・・・・・・ひとかけら
- 水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なべ一杯
これを以下の工程にしたがって作成いたします。
- 豚骨の血抜きをする(ぬるま湯に投入し沸騰させ、5分程度)。血なまぐささに戦争の無益さを思う。
- 血抜きした豚骨のみ煮込む(時間は適当)。
- 桃太郎侍の眼光で鍋を見つめる。アクをとらなくてはならないからだ。
- 数時間似た後、ほど良い頃合にばら肉と背脂を投入。
- またしばらくTVを横目でなめるように見ながら煮込む。
- ばら肉からしっかりエキスがでたら取り出し、井川遥のカレンダーを購入するような感じで醤油だれに移す。
- 最終段階に野菜類を投入。野菜は鈴木あみの復帰の可能性くらい微量でよろしい。
(注:3年前こう書いていました。現在では復帰されておられますね。おめでとうございます。)
すみません。従うほどの工程ではありませんでした。
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なお、二日目のスープはこんな感じです。
「秘伝のタレ」などという言葉がありますように(なお、私は「秘伝のタレ」という言葉以外で、「秘伝」という単語を使った言葉を見たことがありません。)ラーメンっていうものはタレが命ですから気合を入れて作らないと全てが台無しです。そういうわけで、チョイスにチョイスを重ねてこんな材料を用意しました。
その他は、まあその他です。秘伝です。
- 醤油
- みりん
- 砂糖少々
- その他
では、つくり方ですよ。
- 鈴木あみ復帰のニュースに驚嘆しつつ(注:3年前当時、こういう誤報があったのです)、醤油7対みりん3くらいの割合で調合。甘めに作ります。
- 上でつくっているラーメンのスープを醤油だれの25%くらい足して、ビン・ラディンに傾倒した少年を思いながら煮切る。
(醤油だれにもうまみが欲しいんですよ)- スープからばら肉をとりだし、えなりかずきのステージパフォーマンスに思いを馳せながらこのたれに漬ける。
(これがチャーシューになると同時に、タレに肉のうまみが染み出していくと言う寸法ですね。)
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これは製作後に冷えたたれです。脂が固まってます。この脂は捨ててもよいです。
さて、麺です。
市販の麺を使ってもいいのですが、なかなか太い麺というのは売っていないものです。仕方ないから自作しちゃいましょう。麺作りに関してはズブの素人ですから、インターネットから簡単そうなつくり方を仕入れてきました。
材料です。
簡単です。つなぎには卵を使用しています。卵って何にでも使えてすげえ。卵あればなんでもできるんじゃないか。ドラクエTのラダトームの城にいる「光あれ!」って言うおじいさん。あのおじいさんも「卵あれ!」って言ってれば勇者のヒットポイント回復するんじゃないのか。
- 強力粉・・・・・・・・・・・・・・・・・・450g
- 薄力粉・・・・・・・・・・・・・・・・・・150g
- 卵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3個
- 水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150cc
- 塩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12g
まあ、そういうわけで、つくり方です。
- 材料を全てまぜ、ひたすらこねる。このとき、人生の数々の出来事を思いながら。
- さらにこねる。存在の耐え切れない軽さに負けず足でも踏む。
- こね飽きたら冷蔵庫で一晩寝かす。泣き疲れて自分も寝る。
- いいかんじになる。肛門期の少年のように自己の能力を知り、喜びに打ち震える。
- すべてを切り刻む。家になぜかパスタマシンがあったので使いました。
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うちのパスタマシンでは太くしか切れませんでした。実に極太。あと、こねるときにタネがパサパサでして、弱気になって水を足してしまったんですが、そのせいでグチョグチョです。あそこはガマンが必要ですね。
今回目標としているラーメンには、実はメンマが必要ありません。
しかし、やはりこのコリコリとした食感はつまみにもいい。めんまは田代まさしのような、ラーメンの名脇役ですから。せっかく作った醤油だれを生かしたいですし。
というわけで、メンマを買ってきてごま油で炒めます。
上で作った醤油ダレ、砂糖などで味付け。
横目で見ているテレビではブータンの山中の人々の暮らしが放送されています。。一家の大黒柱の夫が強制的に兵士にされ、山を離れなければいけなくなるんです。奥さんは夫についていくべきか、山の中の生活を続けるべきか悩みます。↑
チャーシューととなりあわせ。メンマ作りは直感で。ちょっと辛味をプラスしてもよいです。
なお、このメンマが出来上がるときには、テレビのブータンの生活もクライマックスを迎えてます。実はブータンの奥さんは2人のだんながいました。この2人のだんなは実の兄弟。複雑な気持ちです。
出来上がりです。
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我ながらおいしそうです。見た目。麺太すぎですが。
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食事中。汚らしくて申し訳ない。↑
味もなかなか。甘味のある醤油だれと濃厚な豚骨スープ。実に満足。
初めて自作した麺はぷりぷりの食感。もう少し加水率を抑えてぼそぼそにしたほうがスープには合ったかも。なんて、通みたいなことを言ってみます。
というわけで、ラーメン作りは成功に終わりました。グツグツと音を立てる鍋を見ていると「俺、ラーメン作ってる」、そういう高揚感があります。
なお、今は、この大量に余ったスープを見てゲンナリとしているところです。
全工程はやはり丸1日近くかかってしまいますので、忙しいビジネスマンにはなかなか難しいとは思いますが、暇な学生さんはやってみたらいかがでしょうか。その際には近所の異臭騒ぎ等には十分ご配慮ください。
そういうわけで、人身バイバーイ
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文責:四万十川篤彦(Web冷え汁)