え。いやあ死にたいですねえ。
最近はまあ、自殺とかも増えてて、こりゃいかん、って事になっとるわけですが、小生もそろそろその輪に入りたいなあ、なんて思ってですね。
手首をこう、スッと、ね。
先日などは私の作った水道会社がですね、バルブがはじけて倒産してしまったんですけども、まあ、バブル崩壊でもない時期にバルブがはじけてちゃ、シャレの一つにもならねえじゃねえか、とね。こう思いまして、手首をこう、スッと、ね。まあ、これが50個目の傷なんでございますが。アニバーサリー。
もうすぐ55個目の傷が出来る予定なんですが、まあそうなりますと、ニューヨークヤンキースのゴジラの背番号と同じですよ。私もどばあっ、と赤々とした血を流しながら、「俺こそ赤ゴジラだーっ」、とね。「とったどー!」とまあこんな勢いで祝いたいものですなあ。
題材が古うございますか。
まあ、死にたい死にたい言うとりますが、なんだかんだで一番死にたいといえば、長年連れ添った伴侶が死んでしまうときでございますな。
小生にも嫁がいるんですがね、またこれがものすごく強い。あのー、例えるならばあれですな。ジャイアント馬場。がキックをくりだして。そのくりだしたキックのさきっぽにある靴のですね。靴紐。の先っぽのあのビニールくらい強うございます。
「私、さきっぽがだらしないヒモをまとめる!」とまあ言ってそうでしょう。さきっぽのビニール。
まあ、私もヒモだけに頼もしいわけですよ。さきっぽのビニールが。こう、孫悟空の頭を締め付ける金の輪っかのように、女房という名の先っぽのビニールが、ヒモの私めの脳みそをギューっと締めるわけでございます。
そういった彼女のたくましさに依存しとる私などは彼女が死んでしまいますと、こっちも死にたくなりますな。たぶん。食いぶちがなくなって。まあ、死んだ嫁の肉でも食って生き延びるかと。そのくらいの絶望を感じる。いや、感じちゃう。ああ、感じちゃう。感じてきたわぁ。もっと乳首をつねってぇ、と。いやいやワキゲを引っ張ってぇ!と。
まあ、本日の話、そういった妻をなくした男の話でして。以前から往生際の悪い男だったんですが、奥さんが死んでも諦めきることができないんでしょうな。考えあぐねた末、いたこのところまで行ったわけであります。ま、このいたこがまた無能でございまして。
狭い一室。切羽詰った顔の留吉と、鷹揚とした態度のいたこが対峙しております。
いたこ:で、どんなご用件でございましょうな
留吉 :妻がはかなくなってしもうて呼び出して欲しいんですわ。アァッ!もう一度妻に会いたい!
いたこ:なるほど、奥さんが。
留吉 :ええ。
いたこ:はかなくなって
留吉 :ハァ
いたこ:まあ、ノーパンというのもそれはそれで風情があるもんでございますな。スースーして世間の空気にじかに触れることが出来ますからな。
留吉 :あの・・・。もし・・・。
いたこ:「あっ、今日から梅雨入りね!」とかね。季節には敏感でいたい。
留吉 :急に詩的にならんでください。
いたこ:あ、こりゃ申し訳ない。ノーパン、と。メモメモ。
留吉 :なんですか。そのメモは。
いたこ:いたこメモじゃ。
留吉 :ヘェ。っと、納得してる場合じゃありませんがな!。一体何が書いてあるんですか!そのメモには!
いたこ:まああれですな。多いのは大きな窓、そして小さなドア・・・
留吉 :ヘェ。
いたこ:そして、部屋には古い暖炉じゃ。
留吉 :あなたはいますか。
いたこ:おらん。
留吉 :ヘェ。いや、納得しとる場合じゃなくてですな!はかなくなるというのはパンツをというわけではないのですがね!
いたこ:ああ、早合点、早合点。さすがに最近ともなればパンツは必需品でございますからなあ。ネコも杓子もパンツをはきよる。ネコはともかく、杓子にパンツをはかせるというのはどういうプレイなのや!と憤る気持ちもある。
留吉 :ヘェ。まあ嫁は死に目でもパンツをはいとりましたから。
いたこ:なるほど。パンツは履いているが、ズボンは履いてない、か。アリパン、ノーズボン、と。
留吉 :(これはもうらちがあかんな。)あの、「はかなくなる」というのは、死んだということなんでございますが。
いたこ:そうならそうと早くおっしゃって欲しいものですな!
留吉 :すみません!
いたこ:いたこを怒らせると怖いぞ!おばけが出るぞ!
留吉 :ヘェ、まあそのおばけを出して欲しいんですが
いたこ:そうならそうと早くおっしゃって欲しいものですな!
留吉 :まあ、そろそろ読者も飽き始めてるところですので早く始めませんか。
いたこ:ヘエヘエ、じゃあはじめましょうかねえ。
いたこが目を瞑ると、突然顔が険しくなります。あたりに不穏な空気が流れ始め、留吉は異常な緊張感にとらわれまして。数分の沈黙の後、いたこがようやく口を開いたわけでございます。
いたこ:ハァハァッ!
留吉 :よっ!よし子かっ!
いたこ:ハイ・・・あなた・・・
留吉 :よし子オウオウ!会いたかった!
見事、いたこは留吉の妻を呼び出した、かのように見えたわけですが、やはりそこは無能のいたこ。当然はったりでございます。騙された留吉を見てもうひと芝居打とうと、思案をめぐらすわけでありまして。と、ここで悪巧みに歪みかけたイタコの顔が、苦痛に歪みます。便意をもよおした模様です。しかも大のほうでございまして。
いたこ:フンオッ!
留吉 :よし子!どうした!そんな獣みたいな声を出してっ!
いたこ:じ・・・実は、あなたとの間に子供が出来てたの・・・
留吉 :ハウァッ!ということは、私は最愛の嫁だけでなく、子供まで同時になくしたということか!しかし、よし子は45歳。そんな高齢で妊娠していただなんて・・・
いたこ:ごめんなさいね・・・私がいたらないばっかりに・・・
留吉 :ううん・・・いいんだよ・・・こうして話が出来るだけで・・・赤ちゃんのことはいいんだ・・・
いたこ:フンオッ!
ここでいたこの便意は限界に達します
いたこ:う・・・・生まれる!!
留吉 :よし子おおー!
いたこはやおらテーブルの上に飛び乗り、尻を出し、苦悶の表情で何かをひねり出します。
そして、数秒後、いたこの下にほんわかとした茶色い物体が出てきます。
いたこ:まあ、これが本当の降霊出産ということでして
留吉はありがたいありがたい生命を受けたうんこを持って帰りましてですね。ありがたくいただいたそうでございます。まあ、妻が死んでも留吉にはウンがついた、ということで、めでとうございます。
おあとがよろしいようで。
まあ、こう、手首をスッと。