大学時代に西荻窪に住んでたときに通っていたラーメン屋を唐突に思い出した。 

この店には何度も通っていたが、ラーメンの味よりも、ある1回の訪問の際の情景で覚えている。自分の記憶力を確かめるために少し書き出してみたい。

この店は夜の8時だか9時ぐらいに開いて深夜過ぎまでやっている店だ。部屋で20インチのテレビを見ていた私はその店を思い出して、行くべきか悩んだ。次の記憶では既に私はチェーンが外れやすくなったボロボロの自転車で真っ暗な道を走っている。白い息を吐いているので、冬だ。

確か、店は杉並区桃井というところにあった。西荻窪駅からは歩くと20分くらいかかる。私は南口から徒歩12分、久我山との間に住んでいたので自転車でも10分以上かかっていたはずだ。この店は臨時休業もあるので、もし休業にあたったら、そのときの絶望感といったらない。砦で敵の侵攻を食い止めなければいけないのに、武器がカニスプーンしかない、というときに匹敵する絶望感だ。

きしむチェーンを酷使して、やがて赤いガラス戸にたどり着く。灰色に近い灯りが赤と混じって漏れていてホッとする。

表に自転車を停める。ドアをスライドさせて中に入る。灰色にくすんだ店内は湯気で もやがかっている。L字型のカウンターが細長く伸びていて、こんな時間でも7割くらいの席が埋まっている。店内のもやが強すぎて俯いて麺をすする人たちの顔もはっきりと判別できない。よくわからない人たちが同じ麺をすすっている。カウンターを挟んで向かいにいる店主の顔もシューマイの湯気で判別できない。

真ん中あたりの席に座ってこの店一番人気の味噌ニンニクを頼んだ。600円だったように思う。初めて来たときは醤油を頼んだ。でも、店で他の人はほとんどが味噌ニンニクを頼んでいた。試しに頼んでみてから、今はいつもこれだ。最初、ニンニクを頼むのは何か怖かった。でも今は食べることができる。自分も湯気に紛れる。

店主は麺を茹でた。茹でていないはずはない。何故ならラーメンだからだ。きっと店主は丼にスープを入れた。味噌の白いスープ。粗く何かが光っていて、ああ、今何かを溶かした。隣の客が麺を啜った。店主がスープに茹で上がった薄黄色の麺を入れた。もやしが入ったのかもしれない。そしてチャーシューではない、煮たヒラリとした肉が入った。そこに生のニンニクがこれでもかと乗った。

割り箸を割ってガっついた。柔らかい麺と白いスープに異常なニンニクが香り、ここでしか味わうことのできない変な高揚感が襲ったのかもしれないし、覚えてない。バジュッ、バジュッと音をして食べていたのは隣のやつだ。明日は人に会わない。何故ならニンニクはくさいからだ。明日は人に会わない奴らばかりがここに来ているのか。顔を見る気はないし、青梅街道にトラックが走る。金を払った記憶はない。

次の記憶は家で、翌日になっていた。自分が抜群に臭くて、今日は人に会うのをやめようと思った。薄暗い昼間に20インチのテレビを横になって見ていた。曇りで良かったと思った。


coldsoup

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