山谷2
おとといの続きです。
(こっちこっちと手招きする爺さん)
私が「俺?」と自分を指差すと爺さんはさらに手招きをする。おとなしく歩み寄る。爺さんからムッと酒の匂いがする。これは、ダメな酔い方だ。
「何やってんの君。」
単純な質問。にも関わらず私は言葉がすぐに出てこなくてウッとたじろぎ、ほんのりと周囲を見回す。その工程を経てやっと搾り出した言葉。
「いや、散歩を」
とっさに飛んでくる。「バカじゃねえの?」
すごく綺麗な関東弁。ジャイアンみたいだ。ここらへんの人なんだろう。この類の言葉を自然と使える人には何故か無条件の敬意を感じてしまう。
「おまえ、ここは最低だぞ。え?」
「ハア、一応どういうところかは存じ上げてはおりますが・・・」
「お前バカだろ。俺は今、茶を買って帰るところだからさ。」
爺さん、両脇にはさんだ茶を手をクロスしてさっと出して見せ付ける。両手に緑茶。思わず笑ってしまう。
改めて爺さんを見る。年のころは70歳くらい。よく洗濯された綺麗な服を着ていて、明らかに日雇い労働者ではない。目は酒でとろんとしているものの、さっきのおじ様ほどずしりと澱んだ重さはなくとても軽やかな感じだ。
「で、お前は何やってんだ。」
「いや、まあ散歩を。」
「俺あ、昔甲子園のアルプススタンドに立ってたんだ。」
唐突に言ってチッと舌打ちをする。
「間違ったじゃねえか」
「何をですか!」
「いや、甲子園に行ったことあんだよ。」
私も何故かうまく軽口を叩ける。
「オチを先に言ったんですね。」
また、チッと舌打ちが聞こえる。とろんとした目尻がやや下がる。
「メシは食ったのか?」
「いや、朝飯をちょっと。」
爺さん、どうやらまだ飲みたいみたいだ。そう感じた私はニコニコしながら「金ないっすよ。」いつの間にか歩みはいろは会入り口近くのそば屋へ。店のすぐ隣に布団で寝てる人を横切り、暖簾をくぐる。
「いや、また来ちゃったよ。偶然若いのがね。」
店員はその声が聞こえてるはずなのに完全に無かったことにして奥で何かを支度してる。ごく普通のそば屋。店中につまみの名を書いた札が何かを払うように張り巡らされている以外はとりたてて特別なことはない。
店員はほどなくゆっくりとした足取りで茶をだしにくる。改めて爺さんは言う。
「偶然若いのがね。」
店員、会釈だけして手に伝票を持ち、注文をとる意志を見せる。爺さん意に介さずフランクな口調でビール大瓶と焼酎を頼む。店内には2人。妙に上に置かれたテレビを見上げながら蕎麦をすすっている。
「でよ。」
方言か。
「お前は仕事何やってんの」
「いや、サラリーマンを」
「エリートじゃねえか!」
爺さんは突如激昂し始め、卓上に置かれた七味をシャカシャカし始める。
「いや、全くしがないサラリーマンで。」
トスッ、トスッと酒が置かれる。大瓶と焼酎のストレート。爺さんは首をやや横に傾けながら言った。
「ま、いいじゃん?」
私は大瓶をスイと持ち自分のグラスに傾けた。不思議と爺さんの首の角度にそっくりな感じがした。
(続く。またか。)
(こっちこっちと手招きする爺さん)
私が「俺?」と自分を指差すと爺さんはさらに手招きをする。おとなしく歩み寄る。爺さんからムッと酒の匂いがする。これは、ダメな酔い方だ。
「何やってんの君。」
単純な質問。にも関わらず私は言葉がすぐに出てこなくてウッとたじろぎ、ほんのりと周囲を見回す。その工程を経てやっと搾り出した言葉。
「いや、散歩を」
とっさに飛んでくる。「バカじゃねえの?」
すごく綺麗な関東弁。ジャイアンみたいだ。ここらへんの人なんだろう。この類の言葉を自然と使える人には何故か無条件の敬意を感じてしまう。
「おまえ、ここは最低だぞ。え?」
「ハア、一応どういうところかは存じ上げてはおりますが・・・」
「お前バカだろ。俺は今、茶を買って帰るところだからさ。」
爺さん、両脇にはさんだ茶を手をクロスしてさっと出して見せ付ける。両手に緑茶。思わず笑ってしまう。
改めて爺さんを見る。年のころは70歳くらい。よく洗濯された綺麗な服を着ていて、明らかに日雇い労働者ではない。目は酒でとろんとしているものの、さっきのおじ様ほどずしりと澱んだ重さはなくとても軽やかな感じだ。
「で、お前は何やってんだ。」
「いや、まあ散歩を。」
「俺あ、昔甲子園のアルプススタンドに立ってたんだ。」
唐突に言ってチッと舌打ちをする。
「間違ったじゃねえか」
「何をですか!」
「いや、甲子園に行ったことあんだよ。」
私も何故かうまく軽口を叩ける。
「オチを先に言ったんですね。」
また、チッと舌打ちが聞こえる。とろんとした目尻がやや下がる。
「メシは食ったのか?」
「いや、朝飯をちょっと。」
爺さん、どうやらまだ飲みたいみたいだ。そう感じた私はニコニコしながら「金ないっすよ。」いつの間にか歩みはいろは会入り口近くのそば屋へ。店のすぐ隣に布団で寝てる人を横切り、暖簾をくぐる。
「いや、また来ちゃったよ。偶然若いのがね。」
店員はその声が聞こえてるはずなのに完全に無かったことにして奥で何かを支度してる。ごく普通のそば屋。店中につまみの名を書いた札が何かを払うように張り巡らされている以外はとりたてて特別なことはない。
店員はほどなくゆっくりとした足取りで茶をだしにくる。改めて爺さんは言う。
「偶然若いのがね。」
店員、会釈だけして手に伝票を持ち、注文をとる意志を見せる。爺さん意に介さずフランクな口調でビール大瓶と焼酎を頼む。店内には2人。妙に上に置かれたテレビを見上げながら蕎麦をすすっている。
「でよ。」
方言か。
「お前は仕事何やってんの」
「いや、サラリーマンを」
「エリートじゃねえか!」
爺さんは突如激昂し始め、卓上に置かれた七味をシャカシャカし始める。
「いや、全くしがないサラリーマンで。」
トスッ、トスッと酒が置かれる。大瓶と焼酎のストレート。爺さんは首をやや横に傾けながら言った。
「ま、いいじゃん?」
私は大瓶をスイと持ち自分のグラスに傾けた。不思議と爺さんの首の角度にそっくりな感じがした。
(続く。またか。)