人んち
高校2年生だったか、学校の帰りに同級生の友人の家に初めて行った。
彼の家は広島市内から程近い牛田山というところにあり、ひどい急斜面の途中に白くて楚々としたたたずまいの家が上品ながらも窮屈げに立っていた。
家の中はまだ新築の香りがし、とても清清しかった。何の話をしていたか忘れたが(確かガロの漫画の話をして、蔵書を自慢されていたような覚えがある)居心地の良さにボーっとしていて、気付いたらもう7時。帰宅しなくてはいけない時間になった。
すると、友人の母が部屋に来て言った。
「夕飯食べていったらいいじゃない」
当時の私は姉との二人暮らしで、ちゃんとした家の食事というものに飢えていたから「ハイ」と即答。
「じゃあ、ここに持ってくるから待っててねー」
気さくにそう言い部屋を出て行く友人の母の背中は大変頼もしく、いやがおうにも「家の夕食」への期待が高まる。その後の話は気もそぞろ。羅列される漫画家の名前は左の耳から右の耳へ。わざとらしく「腹減ったなー」とアピールをしていたら思いのほか早く黒塗りのお盆に乗せて夕食が運ばれてきた。そうか、もう用意してあったんだな。母、すげー。
机に白く輝くごはん、具沢山の味噌汁が置かれる。うまそう!期待に輝く私の目。さあ、メインディッシュは何だ。
トン。最後に置かれたのは大きめの皿。左半分にキャベツが大きく盛ってあり、その隣には沢蟹の唐揚げが2つ。
「ゆっくり食べてねー」
パタンと音をたてて扉が閉まる。友人は「まあ食ってよ」と言いながらさっそく沢蟹をパクリ。バリバリという音が部屋に響く。私はどうしていいのか分からずとりあえずキャベツをわしわしと口に運んだ。
#
私がいなければ友人の沢蟹は4つだったのだろうか。ほんのりと心と沢蟹の足が刺さった内頬を痛ませながら帰りの急な坂を一気に駆け下りた。
彼の家は広島市内から程近い牛田山というところにあり、ひどい急斜面の途中に白くて楚々としたたたずまいの家が上品ながらも窮屈げに立っていた。
家の中はまだ新築の香りがし、とても清清しかった。何の話をしていたか忘れたが(確かガロの漫画の話をして、蔵書を自慢されていたような覚えがある)居心地の良さにボーっとしていて、気付いたらもう7時。帰宅しなくてはいけない時間になった。
すると、友人の母が部屋に来て言った。
「夕飯食べていったらいいじゃない」
当時の私は姉との二人暮らしで、ちゃんとした家の食事というものに飢えていたから「ハイ」と即答。
「じゃあ、ここに持ってくるから待っててねー」
気さくにそう言い部屋を出て行く友人の母の背中は大変頼もしく、いやがおうにも「家の夕食」への期待が高まる。その後の話は気もそぞろ。羅列される漫画家の名前は左の耳から右の耳へ。わざとらしく「腹減ったなー」とアピールをしていたら思いのほか早く黒塗りのお盆に乗せて夕食が運ばれてきた。そうか、もう用意してあったんだな。母、すげー。
机に白く輝くごはん、具沢山の味噌汁が置かれる。うまそう!期待に輝く私の目。さあ、メインディッシュは何だ。
トン。最後に置かれたのは大きめの皿。左半分にキャベツが大きく盛ってあり、その隣には沢蟹の唐揚げが2つ。
「ゆっくり食べてねー」
パタンと音をたてて扉が閉まる。友人は「まあ食ってよ」と言いながらさっそく沢蟹をパクリ。バリバリという音が部屋に響く。私はどうしていいのか分からずとりあえずキャベツをわしわしと口に運んだ。
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私がいなければ友人の沢蟹は4つだったのだろうか。ほんのりと心と沢蟹の足が刺さった内頬を痛ませながら帰りの急な坂を一気に駆け下りた。