生物多様性マンション 東雲に誕生
刺激的なニュースが舞い込んできた。
生物多様性マンションが江東区東雲に誕生(引越し情報NOW) - エキサイトニュース
近年、東京都江東区の臨海区域には多くの高層マンションが建ち、人口が爆発的なスピードで増加している。合わせてそこに住む人の豊かな生活を支える巨大なショッピングモールがいくつもでき、神をも恐れぬ勢いで急速にその姿を変えている。
そんな状況の中誕生した「生物多様性マンション」。この激しい都市化に対する人間からの一つの回答があるのではないか。地球に住む生物の一つである私としては否が応にもワクワクしてくる。2010年が生物多様性年であることも含めて、とても面白いコンセプトのマンションだと思う。
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念願の生物多様性マンションの30階、3011号室を購入した山田。
数日続く大雨の中、荷物を濡らさぬよう細心の配慮をしながらようやく一通りの引越しを終えた彼は、上下左右の隣人にあいさつをすることにした。
まずは同じ階、左隣の3010号室の八木さん。引越し時にも気になっていたが、部屋の前には多くの新聞紙が積まれている。「何年分ためてるんだ・・・」共用部を我が物のように使う隣人に一抹の不安を覚えながらドアのベルを鳴らす。
と、奥からトトタットトタッと軽快な音がしてドアが急激な勢いで開いた。
びっくりして飛び退いて見ると、そこには四つん這いになって白い毛を身にまとった八木さんがウシ科のつぶらな瞳で自分を見上げている。
事態が飲み込めない山田。しかし人間は初対面が大事。気をとりなおして一応の形式的なあいさつをすると、千疋屋のフルーツケーキを積み上がった新聞紙の上に置いて「隣に引っ越してきた山田です。これからもよろしくお願いします!」と一言かける。
八木さんは不思議げな目でこの急な来訪者を一瞥すると、すぐに興味を失った様子で表に重ねてあった新聞紙に顔をin。クンモックンモッという口の動きで灰色の紙を頬張り始めた。
妙に変だな〜。最近のマンションの住人は隣人の挨拶にも全然反応しないものなのかな〜。まあ、でも気性はやさしそうでよかったなあ。切り立った崖とかでも発達した蹄のおかげでうまく登れるから、こんな高層階でもやっていけるのだよなあ。などと自分を安心させ、山田は八木さんに一礼すると、逆側の部屋に行くことにした。
右隣は3012号室の武川さん。先程の経験を踏まえて、ベルを鳴らして少しドアから離れて待つ。奥からゴボゴボ、ゴボゴボという音がしたかと思うとやはり激しい勢いでドアがバーンと開いた。同時に正に堰を切ったように大量の水が廊下に流れ出し始めた。
山田、とてつもない水量に飲み込まれそうになりながら、「すみません!隣に引っ越してきた山田です、これからよろしくお願いします!これ、銀座千疋屋のフルーツケーキです!」と必死で挨拶の品を差し出そうとする。しかし、よく見れば扉のところには、はみ出さんばかりの白いうねがあるのみで何の返事もない。
ぐあっとそのうねが大きく下に動いた。なるほど、これは口だ。上あごには1日4tくらいのプランクトンを捕獲するのに適した、ひげのようなものがある!まるでシロナガスクジラみたいだ!
山田は「オキアミはいませんが!」と謝罪しながらその口の中にケーキを投げ込むと、扉を急いで閉めると廊下をどうどうと流れる水を泳いで、自らの部屋に逃げ帰った。
ソファに座って気持ちをクールダウン。引越しのドタバタで気付かなかったが、静かになってみると部屋の左隣からはメーメーいってるし、左からはキュッキュキュッキュとクジラのような鳴き声がする。
さらに天井に耳を当ててみれば間断なく甲高い羽音が聞こえてくるし、床に這いつくばってみれば下の階からゲコゲコと大合唱が聞こえてくる。
ああ、自然に囲まれているような気がする!でもこれ以上挨拶に行くのはごめんだ!山田は残した上下階への挨拶を諦め、猛烈な生命力に包まれながら眠りについた。
その日から40日40夜絶え間なく雨が降り続き、東雲だけでなく全ての街は水に完全に覆われることになる。地上に住むほとんどの生命は生き絶えたらしいが、このマンションのおかげで山田ほか、このマンションに住む生命はすべて生きながらえたとのことである。
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ああ、空には虹が。生物多様性バンザイ!
生物多様性マンションが江東区東雲に誕生(引越し情報NOW) - エキサイトニュース
近年、東京都江東区の臨海区域には多くの高層マンションが建ち、人口が爆発的なスピードで増加している。合わせてそこに住む人の豊かな生活を支える巨大なショッピングモールがいくつもでき、神をも恐れぬ勢いで急速にその姿を変えている。
そんな状況の中誕生した「生物多様性マンション」。この激しい都市化に対する人間からの一つの回答があるのではないか。地球に住む生物の一つである私としては否が応にもワクワクしてくる。2010年が生物多様性年であることも含めて、とても面白いコンセプトのマンションだと思う。
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念願の生物多様性マンションの30階、3011号室を購入した山田。
数日続く大雨の中、荷物を濡らさぬよう細心の配慮をしながらようやく一通りの引越しを終えた彼は、上下左右の隣人にあいさつをすることにした。
まずは同じ階、左隣の3010号室の八木さん。引越し時にも気になっていたが、部屋の前には多くの新聞紙が積まれている。「何年分ためてるんだ・・・」共用部を我が物のように使う隣人に一抹の不安を覚えながらドアのベルを鳴らす。
と、奥からトトタットトタッと軽快な音がしてドアが急激な勢いで開いた。
びっくりして飛び退いて見ると、そこには四つん這いになって白い毛を身にまとった八木さんがウシ科のつぶらな瞳で自分を見上げている。
事態が飲み込めない山田。しかし人間は初対面が大事。気をとりなおして一応の形式的なあいさつをすると、千疋屋のフルーツケーキを積み上がった新聞紙の上に置いて「隣に引っ越してきた山田です。これからもよろしくお願いします!」と一言かける。
八木さんは不思議げな目でこの急な来訪者を一瞥すると、すぐに興味を失った様子で表に重ねてあった新聞紙に顔をin。クンモックンモッという口の動きで灰色の紙を頬張り始めた。
妙に変だな〜。最近のマンションの住人は隣人の挨拶にも全然反応しないものなのかな〜。まあ、でも気性はやさしそうでよかったなあ。切り立った崖とかでも発達した蹄のおかげでうまく登れるから、こんな高層階でもやっていけるのだよなあ。などと自分を安心させ、山田は八木さんに一礼すると、逆側の部屋に行くことにした。
右隣は3012号室の武川さん。先程の経験を踏まえて、ベルを鳴らして少しドアから離れて待つ。奥からゴボゴボ、ゴボゴボという音がしたかと思うとやはり激しい勢いでドアがバーンと開いた。同時に正に堰を切ったように大量の水が廊下に流れ出し始めた。
山田、とてつもない水量に飲み込まれそうになりながら、「すみません!隣に引っ越してきた山田です、これからよろしくお願いします!これ、銀座千疋屋のフルーツケーキです!」と必死で挨拶の品を差し出そうとする。しかし、よく見れば扉のところには、はみ出さんばかりの白いうねがあるのみで何の返事もない。
ぐあっとそのうねが大きく下に動いた。なるほど、これは口だ。上あごには1日4tくらいのプランクトンを捕獲するのに適した、ひげのようなものがある!まるでシロナガスクジラみたいだ!
山田は「オキアミはいませんが!」と謝罪しながらその口の中にケーキを投げ込むと、扉を急いで閉めると廊下をどうどうと流れる水を泳いで、自らの部屋に逃げ帰った。
ソファに座って気持ちをクールダウン。引越しのドタバタで気付かなかったが、静かになってみると部屋の左隣からはメーメーいってるし、左からはキュッキュキュッキュとクジラのような鳴き声がする。
さらに天井に耳を当ててみれば間断なく甲高い羽音が聞こえてくるし、床に這いつくばってみれば下の階からゲコゲコと大合唱が聞こえてくる。
ああ、自然に囲まれているような気がする!でもこれ以上挨拶に行くのはごめんだ!山田は残した上下階への挨拶を諦め、猛烈な生命力に包まれながら眠りについた。
その日から40日40夜絶え間なく雨が降り続き、東雲だけでなく全ての街は水に完全に覆われることになる。地上に住むほとんどの生命は生き絶えたらしいが、このマンションのおかげで山田ほか、このマンションに住む生命はすべて生きながらえたとのことである。
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ああ、空には虹が。生物多様性バンザイ!