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香山リカ 流しがみつからない生き方

「香山リカ 流しがみつからない生き方」と読めたのだ。ある日のテレビのテロップ。

「流しが見つからない生き方」。どういうことなんだろう。自分なりにかなり深刻に考えた結果、大学時代の後輩のAの生き方を思い出した。

Aは共同キッチンの四畳半一間に住んでいて、主食はカップ焼きそばだった。

夜。腹が減ると自前のポットを持って自室のある2Fから1Fの共同キッチンに降りて行く。蛇口をひねり、十分な量の水を入れて戻ってくる。コンセントにポットのプラグを差し込むと、カップ焼きそばの蓋を半分開けて麺の下にかやくをしのばせる。しばらく待つ。赤い煮沸中ランプがオレンジ色に変わると、ホコリが何かの粘液によってガビガビに吸着しているボタンを押す。出るふっかりとした湯気、たまるお湯。3分待つ。

出来上がりを知らせるアラームとともに、彼は部屋を見渡す。

「流しが見つからない」

分かりきったその自部屋事情。でも、やっぱり自分の部屋には流しが見つからない。
彼は少しの罪悪感を覚えながら部屋の窓を開ける。スッと差し込む冷気を切り裂くように、ジェットで湯切りする。手元の円形の容器から流れ出る湯の感覚。容器から失われる重量感。時間を置いて下の地面でティチチチッティチチチッとお湯がはじける音がする。

そうして出来上がったほくほくの白い麺に黒いソースをまぶしていっきにかきこむのだ。

そういう生き方!

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テレビにはさっきのテロップが改めて表示された。よく見たら「香山リカ流 しがみつかない生き方」だった。

自分の誤読に気づいた私は少し恥じたが、窓から湯切りする場合は安全のためにも窓枠に片手くらいはしがみついた方がいいよな、と思った。