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ポップコーン狂騒

確か私が4歳だったか5歳だったかのころだったと思う。母がフライパンでポップコーンを作ってくれたことがある。

粒が小さくて黄色いとうもろこしを本体からそぎ落として、フライパンに入れて蓋をして熱する。

このフライパンを振りながら火をあてる。最初はとうもろこしが動くサラサラとした音だけがしていたが、次第にスポン、スポン、カチンとにぎやかな音が鳴り始める。

母は単に黄色いとうもろこしをフライパンに入れただけだ。なのに、鉄のフライパンとアルミの蓋の間で何かが起こっている。その何が起こっているのかなんて、幼少の私には全く分からない。音は大きくなる。パパンポンポンキンココンと華やかに奏でられる音に、なんだかものすごく大きくて楽しいことが始まるかのような気がする。胸の奥あたりがクッと上がった感覚を覚える。薄暗い土間の台所でカッチンポコポンとはぜる音は自分の頭の中もカッチンポコポンと沸き立たせてくれた。

そうこうしているうちに一通りのフライパン騒ぎが終わる。

母が私のほうをニカッと笑って蓋を開けると、そこには白くはじけたポップコーンが出来上がっていた。入れたとうもろこしの数倍の量になっているポップコーンからは、ふわっとバターととうもろこしの香りがし、なんだかものすごく素敵なことが起こったように思えた。まさか、あのとうもろこしがポップコーンだなんて!すげえ!

このときばかりは母を尊敬するしかなかった。

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翌日、私はその思いを満面の笑みと優越感で保育所で先生に伝えた。

「うちの母ちゃんはポップコーン名人じゃけえ!」
「あれは魔法じゃあ。絶対一度みてくれえや!」

それを聞いた先生は、何を思ったか保育所に私の母を呼び、ポップコーンの実演をさせるという行動に出た。

実演といっても、とうもろこしを入れてフライパンを熱するだけ。広い遊戯室の中央に置かれたカセットコンロに置かれた1つのフライパンは、ポコポン、と広い部屋に不釣合いな頼りなげな音を立てた。

その頼りなげな音が放たれるたび、ちくりちくりと自分の胸を刺されるようなそんな気持ちがしたものだ。

今、母に言う。
息子の慢心のために妙なことに巻き込んでしまい、すみませんでした。