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ピザをうまくするスパイス



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写真は関係ありません。

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我が家の一階には宅配ピザのドミノピザが入っているが、注文するのはかなり離れた場所にあるピザハットの方が断然多い。

ピザハットのあのゴールデンチーズクラストだのダブルロールだのの耳に対する執着は私をとらえて離さない。ドミノピザにおけるミルフィーユの「重ねる」という重厚長大な発想よりも、いまいち人気のないあの端っこを逆にウリにしてしまうという逆転の発想に軍配をあげたい。

同時にピザハットは、あのチープな具と塩分過多な感じも他のピザチェーンを大きく引き離して私の好みに合っている。さらに言えば、お肉たっぷりメニューである「ミートパラダイス」という名前には、愛を持って口ずさみたくなるような魅力がある。

とはいえ、徒歩0分のところにあるドミノの持ち帰り20%オフは大いにアリだ。食べたい時に注文に行ってちょっと待てば食べられる利便性もいい。そして、なんだかんだ言って味はそこそこ満足できる。利便性と価格のドミノピザと、味と耳のピザハットを冷静に比較すると、ドミノピザの方に傾いてしまうだろうと思う。

こんな状況下でも、私がひたすらピザハットに注文を繰り返すのは、そのドラマ性のためだろうと思う。

我が家の入り口を大きく塞ぐ商売敵のドミノピザ。立ち並ぶ宅配バイクの横を忍び足を立てて通り抜け、我が家のポストにラブレター(ちらし)を入れる。その楚々としつつも図々しい振る舞い。

私はその勇気を受け取り、電話で応える。下のドミノのやつに聞かれてはいないか?心なしか震える小声。それを受けた彼は素早い手つきで生地に具を並べ始める。

待ちわびる私。焼き上がったピザをいそいそと保温袋に入れて飛び出す彼。家の飲み物を確認する私。不必要な唸りを上げて走り出すバイク。
テーブルの上にピザを置く場所を確保する頃、彼は三つ目通りと葛西橋通りの交差点を二段階右折する。

私が部屋であまり余った時間を持て余して腕立て伏せをするころに、バイクはようやく到着する。

そこに再度立ちふさがる商売敵。ライバル店前でピザを出すその手。ドミノの視線。何しに来たんだという視線。どうせ耳にチーズ入ってんだろという視線。こちとら生地重ねてんだよというドミノの矜持。心折れそうになりながら。
耳にチーズ入れて何が悪いんだ!ソーセージだって入れるんだぞ!思わずいやらしい言葉になっていることも気づかず、視線をかいくぐって我が家へ。階段を駆け上がる。よかった。ドミノ、もう追ってこない。藁をつかむような気持で我が家のドアホンを押す。「お待たせしました、ピザハットです。」部屋の静寂を打ち破る声に私はバッと立ち上がる。

ピザと金を交換するのももどかしく、テーブルの上の空間にいち早く舞い戻る。箱を開けるとそこには、ピザハットと私、二人だけのミートパラダイスが広がっている。だだっ広くて凹凸の少ない肉の平原が私を待っている。