ルルA錠。
Hさんは朝から風邪気味で、それをおして出社していた。今日は大事な顧客でプレゼンがあるのだ。私はそのプレゼンの補佐役として客先に一緒に行くことになっていた。
しかし、おたがい他の業務にかかってうっかりしており、気付いたときには客先に出発しなければいけない時間の5分前。やばい!と二人慌てふためき、急いで用意をして走って駅に向かった。タッツタッツと走りながら元から青ざめていたHさんの顔がさらに青くなる。
「いや、でもあれだ」
「どうしました」
「ちょっと風邪ひどいから、風邪薬買ってから電車乗ったほうがいいかも」
「えー!そんな時間ありますか!」
「いや、もう無理。そこのマツキヨいくから。最悪でも四万十川は時間通りに着くよう先に乗っててくれ」
「わかりました」
私はササーっと滑るように地下鉄に入り、乗る予定の電車が来る2分前にたどりついた。早く来い、Hさん。あなたが遅れると私がプレゼンをするハメになる。ハラハラして待っているとホームに電車が入ってきた。プシー。扉が開く。
私は諦めの表情で電車に乗り込み、Hさんが来るのを待つ。と、Hさん意気を切らしてアゴを上げながら走ってきた。プーっとブザーが鳴る。それと同時にHさんは扉に手をかけてグィッと乗り込み、私の隣にへたりこんだ。ハァハァと荒い息が聞こえる。
「なんとか・・・間に・・・あったな」
買ってきたピンク色の箱を開けながらHさんは言う。
「いやあ、来ないかと思いました」
そう言う間に彼は錠剤を3粒手に取り、一緒に買ったポカリスエットで流し込んだ。
さて、客先は東京のはずれ。この電車に乗れば直通で着くものの、会社からは1時間以上かかる。お互い最初は様々な話題を出し合い、息もつかせぬ丁々発止のやりとりをしていたが、さすがに20分もすると話題がなくなってきた。
沈黙。
沈黙。
沈黙脂汗。いや、Hさん、ちょっとまずいんじゃないすか。私がそう言うと、「いや、た間違いなくまずい。」とのこと。おいおい。Hさんの顔はみるみる青ざめていき、完全にうつむいてしまった。何かを我慢している風にふるふると震えている。キー。電車が駅に止まる。
「いや、もうだめだ!俺は降りる!」
目的地までの道のりでちょうど真ん中に位置する駅でHさんはそう言い残し、荷物も持たず、脱兎のごとく電車から出て行った。私が唖然としている間に電車は静かに進み始める。ストトンストント。
私はこれから突然来るプレゼンに向け頭を使い始めた。ふと横を見ると、Hさんが残していったカバンからは「ピンクの小粒 コーラック」が覗いていた。
#
風邪薬と間違えて便秘薬コーラックを買ってしまったようです。
しかし、おたがい他の業務にかかってうっかりしており、気付いたときには客先に出発しなければいけない時間の5分前。やばい!と二人慌てふためき、急いで用意をして走って駅に向かった。タッツタッツと走りながら元から青ざめていたHさんの顔がさらに青くなる。
「いや、でもあれだ」
「どうしました」
「ちょっと風邪ひどいから、風邪薬買ってから電車乗ったほうがいいかも」
「えー!そんな時間ありますか!」
「いや、もう無理。そこのマツキヨいくから。最悪でも四万十川は時間通りに着くよう先に乗っててくれ」
「わかりました」
私はササーっと滑るように地下鉄に入り、乗る予定の電車が来る2分前にたどりついた。早く来い、Hさん。あなたが遅れると私がプレゼンをするハメになる。ハラハラして待っているとホームに電車が入ってきた。プシー。扉が開く。
私は諦めの表情で電車に乗り込み、Hさんが来るのを待つ。と、Hさん意気を切らしてアゴを上げながら走ってきた。プーっとブザーが鳴る。それと同時にHさんは扉に手をかけてグィッと乗り込み、私の隣にへたりこんだ。ハァハァと荒い息が聞こえる。
「なんとか・・・間に・・・あったな」
買ってきたピンク色の箱を開けながらHさんは言う。
「いやあ、来ないかと思いました」
そう言う間に彼は錠剤を3粒手に取り、一緒に買ったポカリスエットで流し込んだ。
さて、客先は東京のはずれ。この電車に乗れば直通で着くものの、会社からは1時間以上かかる。お互い最初は様々な話題を出し合い、息もつかせぬ丁々発止のやりとりをしていたが、さすがに20分もすると話題がなくなってきた。
沈黙。
沈黙。
沈黙脂汗。いや、Hさん、ちょっとまずいんじゃないすか。私がそう言うと、「いや、た間違いなくまずい。」とのこと。おいおい。Hさんの顔はみるみる青ざめていき、完全にうつむいてしまった。何かを我慢している風にふるふると震えている。キー。電車が駅に止まる。
「いや、もうだめだ!俺は降りる!」
目的地までの道のりでちょうど真ん中に位置する駅でHさんはそう言い残し、荷物も持たず、脱兎のごとく電車から出て行った。私が唖然としている間に電車は静かに進み始める。ストトンストント。
私はこれから突然来るプレゼンに向け頭を使い始めた。ふと横を見ると、Hさんが残していったカバンからは「ピンクの小粒 コーラック」が覗いていた。
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風邪薬と間違えて便秘薬コーラックを買ってしまったようです。