はじめに
2024年末、90年代に音楽的青春を過ごした紳士淑女にも話題に事欠かない年になった感じがしております。2024年のよかった曲を整理するためにいろいろ振り返ったりしていましたが、本当にいろいろなことがありました。とはいえ、情報量も多すぎてまとめきれないので、「40代中盤の男性から見た2024年の音楽関連の印象的な動きを5つピックアップしてください」と自分自身にプロンプトを打ってみましたところ、以下の回答となりました。
40代中盤男性から見た2024年の音楽関連のニュースは以下のとおりです。
1.Oasis再結成
いつかありそうなやつはやっぱある、ということを改めて感じさせる出来事ですが、2024年1月にはOasis再結成を予見するかのようにWINOも再結成していたことが分かり、90年代ロックファンがザワついたりしたのも非常に印象的でしたね。
2.永野氏の再ブレイク
芸人の永野氏の再ブレイクにより、90年代の抑圧されたり鬱屈させられていた洋楽ファンのゆがみが再度可視化されていきました。彼の活動はもちろん数年前から蓄積されていましたが、それが現在のAbemaや地上波でのブレイクにより、表に出てきた感があります、ベックやビョークをほめなくてはいけなかった90年代。97年の調子に乗ったU2に対する態度など、同じ90年代を暮らした人には大変身につまされる動画が満載です。
なお、最新の動画(2024年12月)ではジ・エッジが「Hello!配信王ナガノ!」と挨拶しており、自分がどういう時代、どういう世界線に生きているのか分からなくなりますよね!
3.万引き最高!そして、サブスクは万引き!
高名な音楽評論家が、「レコードが死ぬほど欲しくて万引きした経験のない同世代の連中は基本的に信用していません」と言いつつ、「サブスクは万引き」と発言し、結果として「サブスク=万引き=信用できる」をアピールしたのも2024年の話題として欠かせませんね!
4.Suno AIなど生成AIの登場
Suno を代表とする音楽系AIについては、その生成される楽曲のクオリティがかなり驚きをもって迎えられました。とはいえ、40代が「時代の潮流じゃ・・・わしもやってみるかの・・・」といざ取り組もうとすると、全くもって歌詞も作りたいものも思い浮かばない、という事態に直面。潮流以前に人間としての情熱の著しい老化を実感する人が続出したようです。AIはあくまでツールです。残念でしたね。
5.日本版Tiny Desk Concertが微妙
出ているバンドの演奏はすべて素晴らしいと評判ですが、ごく一部の人から「本家のギューギューな感じが全然出ていなくて空間が間延びしている」「その割に妙に天井が低くて圧迫感がある」「JTCが働き方改革と称して無理して作ったフリーアドレスのシェアスペースみたい」「いちいち見切れるチコちゃんがウザい」」「出てくるアーティストの選択が権力をもった40代後半音楽好き感が溢れており、『最近のバンドとかB’zとかもいいと思ってます』みたいな目くばせをしてきてイラッとくる」などの意見が上がっています。
これらが2024年のニュースです。この情報は偏った情報源に基づいており、必ずしも世間一般の音楽の流行を示すものではないことにご注意ください。
以上、一部、犯罪を推奨するようなハルシネーションが発生していますが、おおむね40代ロックファンの今年の印象的なニュースと重なっているのではないかと思いました。
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さて、このサイトは1年に1回だけ、自分が聴いてきた曲を自分のためにまとめるサイトです。
私自身はこの10年近く、自分好みにカスタマイズされたサブスクのおすすめであったり、Youtubeのホームに突然出てくる自分に関係しているんだか何だかよくわからないおすすめなどが中心的な出会いのパターンです。その前は好きなアーティストのCDは買いつつも、ほとんどの音楽との出会いは神保町にあった「ジャニス」というレンタルCDmにみはこの10年近く、自分好みにカスタマイズされたサブスクのおすすめであったり、Youtubeのホームに突然出てくる自分に関係しているんだか何だかよくわからないおすすめなどが中心的な出会いのパターンです。その前は好きなアーティストのCDは買いつつも、ほとんどの音楽との出会いは神保町にあった「ジャニス」というレンタルCD店で隔週くらいで10枚借りて返す生活をしていました。このため、万引き常習犯となります。
という状態ですので、メディアに触れることが少ないため、正直マジでどういう曲が人気があるのかいまいち分からない状態が深まっています。でも各種人気ランキングやTikTokでバズった曲10選とか聞いてキャッチアップするのも何か違う。このため、40代中盤はおとなしく大企業が作ったリコメンデーションエンジンに勧められた曲を聴くような、鳥かごの中で情報を摂取してブクブク膨れる哀れな生き方をするしかないのです。
ということで、こちらでは2024年に発売された曲を中心に(一部2023年末とか、2024年に初めて聴いた曲も一部入っています)ご紹介させていただきます!最初のニュースで尺をとったのでひとまず前半までとさせていただきます。
選曲のご参考までに、私の属性をご紹介しておきます。
40代中盤、主として90年代の洋ロック育ち。好きなアーティスト・ジャンルはPrince中心のミネアポリスファンク、Post Punk(Talking Heads、XTC、PILなど)とDance Punk、70年代の甘々なPower Popも大好き。国内はムーンライダーズ、たま、近田春夫などが好きです。最近は主としてイギリス、アメリカ、オーストラリア、日本あたりのインディーズシーンをサブスク中心に掘りながら聴いている感じです
トリプルファイヤー 相席屋に行きたい
最初にブチ上げていきますが、日本版アフロビートの最高傑作ではないか。と思います。
今年一番最高の進化をしてくれたアルバムを出してくれたのがトリプルファイヤーでした。ギターの鳥居氏のリズムとギターに対する偏執的な愛情がリズム隊の素晴らしい実現力によって高クオリティの楽曲として結実した上に吉田氏の声が乗るだけで実に興奮する次第です。
こちらの曲は最初に書いたとおり、最高のカッティングとグループを支えるベースが最高なアフロビートであり、Talking Heads、じゃがたらを通過した80年代~90年代ロック耳には「待ってました!」という音です。アフロビートは一昨年もサカナクションが「ショック!」という曲で採用して(2022年のベストに選出)「来るか?この方向?」とも思いましたが、全然盛り上がりませんでした。そんな中にこの強烈なのをかましてくれました。この超かっこいいリズムに日本語が乗っかるだけで、マジでありがたいです。
そして、このバンドのもう一方の特徴、吉田氏の歌詞は30代中盤を超えてきた中で、どんよりと、かつ研ぎ澄まされてきているように感じます。
何時間もいたい
何時間もいたい
何時間も 何時間も 何時間もいたい
何時間も 何時間も 何時間もいたい
ワクワクしてる
俺は今でもまだ 今でもまだ ワクワクできる
どうかしてた いつも忘れてしまう いても立ってもいられなかったあの日の気持ち
俺が欲しいものは 誰かが欲しがってるものとは全然違うはずだった
相席屋に行きたい
でも本当は知ってる どうにだってなる 今からだって多分なんだってできる どこへでもいける
ワクワクできる心がちょっとでも残っていれば
相席屋に行きたい
あんなに楽しいことが他にはない
あんなワクワクできることがなくなった
いつまでだっていたい いつまでいたって飽きない 何にも代わりになれない
何ものにも代えられない
俺はどこへも行けない もう何だっていい
最初のニュースで出てきた「音楽AIが出てきても作りたい曲がない」話もそうなんですが、この感覚は本当にヒリヒリします。年をとって過去のように自分がまだ何かにワクワクできることがある、というのは意外さと嬉しさがあるが、思っていたのと違う。でもその思っていたものも、割と欲望なのでという逡巡。かゆ・・・うま・・・みたいに繰り返される「相席屋に行きたい」というセリフがアフロビートに乗っかって。繰り返されていくのです。
柴田聡子 「素直」
今年のベストアルバムを選べ、と言われたときに、日本のロック好きの偏った界隈では柴田聡子の「Your favorite Things」が真っ先にあがるんじゃないか、という気がしております。そのくらい自分の観測範囲の音楽好きのザワつきはすごかったです。
私もかなり愛聴しました。数年前からのリズムを重視したアプローチをそのままに、静かで後悔と寛容に満ちたこのアルバムの感じは心地よいものでした。何より最初のMovie Lightがこれまでの彼女の雰囲気を一変させていて「何か起こるんじゃないか感」を感じさせるすごい曲でしたが、そのアルバムのクライマックスになると(個人的に)思うのがこの曲でした。マジで「カープファンの子」のショック以来追いかけてきて本当によかった、と思わされました。
浦小雪 「潮風」
この曲自体は2023年の曲だったのですが、歌舞伎町の広場で一人歌ったこのライブは強いインパクトがありました。ぶっきらぼうかつ強い芯のある声のときの伸びが天性のものを感じさせます。雄大な自然の中に対峙する感情を持った個人、みたいな感じです。何を言っているのかよく分かりませんが。
Xユーザーの浦小雪さん: 「島倉千代子「愛のさざなみ」(1968) https://t.co/bfcgHdyY6T」 / X
「愛のさざなみ」カバーも大変良いです。彼女のやっているSandae May Clubというバンドも含め、注目していきたいです。
あと、Youtubeのタイトルに「SNSで話題になった」とか入るとすごい恥ずかしい感じがするので、運営はどうにかしてください。
年齢バンド 「しばふがあおい」
突然、ぽっとYoutubeか何かでおすすめに出てきて聞いたバンドです。「年齢バンド」という大変いい名前で、たぶん大学出てすぐくらいの年齢の方たちだと思うんですが、この曲はとにかく私の琴線を刺激してきました。
PVの「公園の中」の感じと最初のコード進行でGeorge HarrisonのIsn’t it a pityを感じさせて、おっさんの心を弱らせておいて、ストレートな邦ロックをぶち込まれたせいかなと思います。ギターのディストーションの入るところとか、そう、ここ!みたいな感じで、曲の展開などもグッとくる。
この曲をきっかけにバンドのフロントマンの「お米の佃煮」氏(いい名前!)の作っていらっしゃる曲を一通り聞いてみたのですが、メロディはごく分かりやすくツボをついてポップながらも、独特の強い作家性も感じさせるように感じました。まだ言語化できてないですが。きっとこれからもいい曲たくさん書いてくれるんだろうな、という期待を感じます。
あと、この曲の歌ってることとはちょっとずれるんですが、曲を聴きながら、なんとなく大学時代の倦怠感と焦燥感のないまぜになった感じを思い出したりしました。
世間一般では高校時代が青春としてクローズアップされがちではありますが、高校を出てから大学生活を過ごす人や働き始める人が、そこで起きていく生活の急激な変化と格闘していくみたいなのがたぶん一番青臭さを感じるのではないかなあ、と思うんですが、このバンドの曲を聴いていると、そのあたりの気持ちが呼び起こされて少し胸が詰まるような気持ちになります。
コンドウマコト 「だけ」
シンガーソングライターのコンドウマコト氏のEP「432」に入っている1曲。
こちらの曲は、曲としての盛り上がりの構造がめちゃくちゃ気持ちいいです。そこを強く盛り立てていくトロンボーンの音色が大変優しくも強くて非常に印象的です。
もともとずっとトロンボーンをやられていた方とのことですが、こういうメロウな曲におけるトロンボーンの音ってマジでいいですね。
The Lemon Twigs 「My Gloden Years」
これ、2024年に出た曲なんですよね。見た目から音から何もかもあの時代のパワーポップなのですが、クオリティが高すぎてのけぞるくらい好きです。Raspberries時代のエリック・カルメンとかそのあたりの美メロ+シャウトが中年の心を揺らすのです。
そして、なんといってもちょうど3:00のところのドラムの「ズズダーン!」っていうところはマジでパワーポップのお作法の最重要語法がすべて詰まった必殺の一発であり、これを待ってたんじゃーーー!ってなります(15秒くらい前から始まるリンクを用意するやさしさ)。意識して聴いてみてください。「ズズダーン」。1回経験すると、いろんな曲でここでズズダーン!がほしい!ってなりますので。
今年、後追いで知った素晴らしい曲コーナー
ティンカーベル初野『多分だけどジジィとババァは顔パスでバス乗ってる』
この方は昨年出た「ティンカーベル初野『喧嘩 (feat. らすてぃー)』」で初めて知って、派生バンド「色々な十字架」も含め、注目していてきました。彼はジジィとババァに対する辛辣ながらも愛のある目線の曲が非常に多いのですが、この曲はその中でも観察の目線から、やはり珠玉としか言いようがない。
生活の中で堂々と繰り広げらる、自分の知らないシステムをそのまま記述する。記述したものを通じて自分の中で咀嚼する、というオトナとしてあるべき姿がこの曲には詰まっている。そしてストレートにTRF風なメロディとTRFから30年たったにも関わらず強烈に劣化させた音がみんなの心に勇気をもたらすのです。
ということで、前編はここまで!後編は書くのか!分からんけども!