月別アーカイブ: 2014年9月

「笠置そば 深川店」の「できたて」への強烈な意欲

東京、門前仲町駅から歩いて10分くらいのところに「笠置そば深川店」という立ち食いそば屋がある。

IMG_4772.JPG

なんの変哲もない外観だが、一部では名店、と呼ばれることもあるほど人気だ。その理由はこの店の「できたて」へのこだわりにある。立ち食いそば屋は基本的にスピードが重要。そのスピードを落とし、作り方にこだわる。その姿勢が他の立ち食いそば屋からこの店を際立たせるものになっている。

私は近所に住んでいてこの店によく行くのだが、先日この「できたて」へのこだわりをしみじみと感じる事ができたエピソードがあるので以下に紹介したい。

#

笠置そば深川店の朝は早い。6時45分には店を開け、白髪混じりでいい顔をした店主が1人、無駄のない動作で働いている。少し早起きして開店一番乗りで店に入った私は店主に「天玉そば」と注文した後、かなり腹が減っていることを思い出して追加で鮭のおにぎりを注文。

「天玉とおにぎり鮭ねッ」

店主の復唱はとてもフレンドリーでいい声だ。しかし、それを言い終えた途端、仕事の姿になる。目が、動作が、まさに「そば屋の始動」という形で豹変する。
素早い手つきで箱から生麺を引っ張りだして茹で始める。続いてボウルに仕込んだかき揚げを形を整えながら油に投入。丁寧だ。

20140329-163757.jpg

麺が茹であがれはキリッとした冷水で締め、キレイなお湯にさっと潜らせて丼にイン。

すかさずフライヤーに行き、かき揚げを油から上げる。まだまだ高温でシュウシュウと音をたてているそれを麺に乗せ、かき揚げを入れることに最適化した程よい甘さの汁をかける。高温の揚げ油と汁が混ざってじゅわわわっと気持ちの良い音がする。

最後に玉子をポイと入れ、店主、真顔をやめて笑顔で「あいよっ」とそばを出してくれる。

なんかこの瞬間、説得力のある「そば出来た感」が襲ってくる。「あ、そば、出来たな」って深く感じるのだ。いや、そばが出来る、それはどの店でも起こっている事象だが、「そばが出来たな」と感じる店はそんなにない。わかりづらくて申し訳ないとは思っているが、まあそうなんだ。

IMG_4777.JPG

もちろん、普通の立ち食いそば屋に比べると、出てくるまでに数倍時間がかかるが、急ぐ時は別の店を使えばよいのだ。どこでも急ぐ必要はない。なんせこの店の特長はできたてだ。

さあ頂きます。うん。「できたて」であることが活きている。麺は独特のツルコキッとした食感が楽しい。揚げたてのかき揚げはザクッとしつつ、その風味をそばのつゆに落としていき、汁がどっしりしたものになる。表面に浮かぶ頼もしいキラキラ油を見る。舌よ、アレがパリの灯だ。うーん、こりゃなかなかおいしいね。

といった感じで、天玉そばを堪能していると、奥から「アチッ、アチッ」という声が聞こえて来た。

何だ?っと思って奥を見るとおやじが鮭おにぎりを握っている。おにぎり用容器を使用しているが、ごはんは炊きたてで容器越しでも猛烈に熱いらしい。

この店、おにぎりまでできたてかよ。

店の中、私とおやじと二人きり。おやじのアチッ、アチッっていうつぶやきにそばをすする音で返す。俺達のウィンブルドン決勝のラリー。アチッアチッ、ズッズッ。アチッアチュッ、ズズズゾゾゾ。

最後まで食う者作る者の交歓を繰り返しながら海苔を巻いて出来上がりである。どうぞ。

20140329-163808.jpg

おにぎりはとても熱かった。海苔が蒸気で瞬時に湿る。その熱さに私は店主の出来たてへの情熱をみた。猛烈に熱くて食べにくいくらいだ。でも、いや、まあうまい。いや、熱い。

強烈なできたてと格闘しながらようやく食べ終えて、ごちそうさま!と丼をカウンターに上げる。店主に背中を見せて暖簾をくぐりながら思ったのは

「おにぎりまで出来たてにせんでも」

だ。しかし、その過剰さが愛される要因なのかもしれない。普通に考えるとそばを茹でる2分くらいの間におにぎりを作っておけばスムーズなんだろうけど、たぶんあれだ。熱すぎて間に合わないからそばの後にしてるんだな。なんだかその感じがいいな。

#

とまあ、過剰なまでに出来たてにこだわった笠置そば深川店、是非足を運んでみてください。


生物多様性マンションが江東区東雲に誕生

(ちょっと前に書いたものの再掲です。)

刺激的なニュースが舞い込んできた。

生物多様性マンションが江東区東雲に誕生(引越し情報NOW) – エキサイトニュース 

tayousei.png

近年、東京都江東区の臨海区域には多くの高層マンションが建ち、人口が爆発的なスピードで増加している。合わせてそこに住む人の豊かな生活を支える巨大なショッピングモールがいくつもでき、神をも恐れぬ勢いで急速にその姿を変えている。

そんな状況の中誕生した「生物多様性マンション」。この激しい都市化に対する人間からの一つの回答があるのではないか。地球に住む生物の一つである私としては否が応にもワクワクしてくる。2010年が生物多様性年であることも含めて、とても面白いコンセプトのマンションだと思う。

#

念願の生物多様性マンションの30階、3011号室を購入した山田。素晴らしいマンションで、芸能人や文化人なども多く住んでいるらしい。これからの生活が楽しみだ!

数日続く大雨の中、荷物を濡らさぬよう細心の配慮をしながらようやく一通りの引越しを終えた彼は、さっそく上下左右の隣人にあいさつをすることにした。

まずは同じ階、左隣の3010号室の八木さん。引越し時にも気になっていたが、部屋の前には多くの新聞紙が積まれている。「何年分ためてるんだ・・・」共用部を我が物のように使う隣人に一抹の不安を覚えながらドアのベルを鳴らす。

と、奥からトトタットトタッと軽快な音がしてドアが急激な勢いで開いた。

びっくりして飛び退いて見ると、そこには四つん這いになって白い毛を身にまとった八木さんがウシ科のつぶらな瞳で自分を見上げている。奥からもう1頭出て来た。つがいか。

事態が飲み込めない山田。しかし人間は初対面が大事。心理学でもそう言ってた。気をとりなおして一応の形式的なあいさつをすると、千疋屋のフルーツケーキを積み上がった新聞紙の上に置いて「隣に引っ越してきた山田です。これからもよろしくお願いします!」と一言かける。

八木さん夫妻は不思議げな目でこの急な来訪者を一瞥すると、すぐに興味を失った様子で表に重ねてあった新聞紙に顔をin。クンモックンモッと口を動かして灰色の紙を頬張り始めた。

妙に変だな~。最近のマンションの住人は隣人の挨拶にも全然反応しないものなのかな~。まあ、でも気性はやさしそうでよかったなあ。切り立った崖とかでも発達した蹄のおかげでうまく登れるから、こんな高層階でもやっていけるのだよなあ。などと自分を安心させ、山田は八木さんに一礼すると、逆側の部屋に行くことにした。

右隣は3012号室の武川さん。先程の経験を踏まえて、ベルを鳴らして少しドアから離れて待つ。奥からゴボゴボ、ゴボゴボという音がしたかと思うとやはり激しい勢いでドアがバーンと開いた。同時に正に堰を切ったように大量の水が廊下に流れ出し始めた。

山田、とてつもない水量に飲み込まれそうになりながら、「すみません!隣に引っ越してきた山田です、これからよろしくお願いします!これ、銀座千疋屋のフルーツケーキです!」と必死で挨拶の品を差し出そうとする。しかし、よく見れば扉のところには、はみ出さんばかりの白いうねがあるのみで何の返事もない。

ぐあっとそのうねが大きく下に動いた。なるほど、これは口だ。上あごには1日4tくらいのプランクトンを捕獲するのに適したひげのようなものがある!まるでシロナガスクジラみたいだ!

山田は「オキアミはいませんが!」と謝罪しながらその口の中にケーキを投げ込むと、扉を急いで閉めて廊下をどうどうと流れる潮水を泳ぎながら自らの部屋に逃げ帰った。

ソファに座って気持ちをクールダウン。なんなんだ。このマンションは。引越しのドタバタで気付かなかったが、静かになってみると確かに部屋の左隣からはメーメーいってるし、左からはキュッキュキュッキュとクジラのような鳴き声がする。

さらにテーブルに登って天井に耳を当ててみれば間断なく甲高い羽音が聞こえてくるし、床に這いつくばってみれば下の階からゲコゲコと大合唱が聞こえてくる。
そういえば、はす向かいに「イルカ」さんがいて、おお、ついに芸能人とご近所さん!などと喜んでたけど、実は春が来て綺麗になる方じゃなくて本物のほうじゃないのか!まさか、エレベーター横の部屋のEBIさんもブラックタイガーとかバナメイとかそういうやつか!あっちのとり・みきって書いてある部屋はどうなんだ!

ああ、でも確かに大自然に囲まれているような気がする。ただ、これ以上挨拶に行く気はない!何故なら言葉が通じないから!山田はマンションの四方の壁から滲み出る猛烈な生命力に包まれながら疲労感に襲われて眠りについた。

その日から40日40夜絶え間なく雨が降り続いた。

全ての街は水に完全に覆われた。地上に住むほとんどの生命は生き絶えたらしいが、このマンションのおかげで山田ほか、ここに住む数千種の生命はすべて生きながらえたとのことである。

#

ああ、空には虹が。生物多様性バンザイ!隣人のイルカの歌声が心地よいなあ。つがいになろう!ざざ〜ん!

 


初秋堪能レシピ 秋刀魚と香味野菜のタイ風味

DSC01665-001

9月も半ばになりました。

この時期になってくると目につくのが秋刀魚。美味しいですよね。焼いてよし、揚げてよし、刺し身によし。安いわ手に入りやすいわで、優れものぞと街中騒ぎますよね。

そんな美味しい秋刀魚ですが、たまにはちょっと趣向を変えた食べ方はいかがでしょうか。いえいえ、そんな飛び道具じゃありません。実直で、どなたにも美味しい比較的チャンバも走るレシピだと思います。ではどうぞ。

総料理時間:15分くらい
難易度:かんたん

材料

  • 秋刀魚 1尾
  • みょうが 3個
  • 大葉 10枚くらい?(結構多め)
  • 塩 適量
  • タレ
    • ナンプラー  大さじ1杯
    • レモン汁 大さじ1杯
    • 砂糖 大さじ半分

※辛いものがお好きならば、タレにプリッキーヌもしくは代用で青唐辛子などを1本程度使われるのが良いかと思います。プリックナンプラー(別のサイトです)を用意しておくのもいいですね。

1.タレを作る

DSC01652-001

ナンプラーとレモン汁と砂糖を混ぜます。ナンプラーとレモンと砂糖は2:2:1の比率が基本、と思っています。もちろん生のレモンを絞るのが好ましいですが、写真みたいなかんじのレモン汁でもいいと思います。
なお、この比率で作ったタレはニンニクを焦がした油と混ぜてヤムウンセン(タイ風はるさめサラダ)のタレにしたり、いろんなものに使えます。覚えておくと超便利です。

 

2.大葉とみょうがを細切りにする

DSC01653-001

大葉とみょうがは食感をいい感じで残すように、このくらいの細切りにします。

IMG_4559.JPG

なお、本日の大葉はこちらでございます。

 

3.さんまに塩をして焼く

DSC01659-001

焼き方は通常の塩焼きと同じです。特に分量はお伝えしませんが、後からタレをかけるのでこの料理用には気持ち塩を少なめにして焼くと良いと思います。味をなじませるため塩をしてから10分くらい置くことをおすすめします。中に火を通しやすくするために軽く切れ目を入れるというのもアリだと思います。

個人的にはこのレシピにはそこそこウェルダンで焼くのが良いかと思います。が、まあそこは好みです。

4.そのまま食べるのは我慢する

DSC01660-001

このレシピの一番の難関はコレだと思います。そのまま食べないように気をつけて!いや、食べてもいいけど、このレシピ的にそれは残念だから!

5.みょうが、大葉、タレをかける

DSC01661-001

みょうがと大葉をあるだけわっさりとかけ、その後上から全体にまんべんなく1で作ったタレをかけてください。

 6.できあがり

DSC01665-001

なんか、秋刀魚の布団みたいになっていますね。

DSC01667-002わさっと大葉・みょうがごとすくって食べてみてください。辛味をそんなに入れなかったらたぶん結構「和」でもあります。絶妙な組み合わせであると個人的には思っております。

お試しください!

 

補足:
タイ風、ということでパクチー(香菜)を使う、クラッシュしたナッツを入れる、甘みをスイートチリソースにする、といったものも考えてみましたが、個人的にはなんか違いました。タイに寄り過ぎないほうがいい。この組み合わせがよいと結論づけました。
ただ、上述のヤムウンセンに使うにんにく焦がし油。あれは結構合います。

 


たぶんきっとアレなんだけど、何を示しているのかちゃんと言ってくれなくてモヤモヤするステッカー

IMG_4430.JPG

写真を整理していたら出てきたこの1枚。これは6〜7年前に立食いそば屋でカウンターに貼ってあったステッカーだ。少し画像がボケてて申し訳ない。

その立食いそば屋には頻繁に通っていて、このステッカーは食べる時に目に入る場所に貼ってあった。あまりちゃんと見ずに、「衣がサクサク」「ホクホクのじゃがいも」という言葉から、何となく「コロッケのステッカーかな〜」と思っていた。

しかし10回目くらいにこの店に行った時、このステッカーを改めて見て、「ん?」となった。何なんだコレは。image

  • 衣がサクサク
  • 北海道産ホクホクのじゃがいも使用
  • 牛肉

実体がない。いや、たぶんコロッケのことなんだろうが、コロッケのコの字も出てこないし、1番アピールしているのが「牛肉」だ。絵も改めて見てみると「まな板の上の牛肉」だ。何なんだ。このステッカー。何を言いたいんだ。コロッケをもっとアピールせんのか!ものすごくむず痒くて腹立たしい。うおーーーーーーー!

となったんですが、このむず痒さ、皆様伝わっているでしょうか。

伝わっていない。そんな気がします。

なので、皆様方のためにこのステッカーと同じメソッドでいくつか例を作成してみました。何卒ご査収の上、イライラしてください。

anpan

 

yokado

 

tanpopo

 

gorilla

 

sri

 

以上、よろしくお願いします。酒ゴリラはちょっと違うな、と思っていますからよろしくお願いします。


つげ義春「ねじ式」の「アッ!ここはもとの村ではないか」の場所に行ってきた

IMG_4414.JPG

8月も終わりになったあたり、男3人(サラリーマン2名と僧侶1名)で千葉は外房の「太海」に行ってきました。ここは高く切り立った崖に張り付くようにある古くて小さな漁港で、つげ義春の代表作「ねじ式」で出てくる町のモデルになったことで一部で有名です。

私は7~8年前くらいに1回訪れたことがあるのですが、その時は旅程の関係もあり、あまりじっくりと港を巡れなかったので、今回再チャレンジです。

都心から車で出発し、白浜の方をたらたらと回って行ったので、到着まで約3時間くらいでしょうか。

DSC01503

太海漁港はこんな感じのところです。家の密集具合が見て取れると思います。

DSC01518

町は静かで、ボートの「トントントントン」というエンジン音が大きく聞こえます。

DSC01539 トミオさんのものであることが痛いほど分かる一輪車もあります。

 

で、あっけない感じで、冒頭写真の「ねじ式」で機関車が登場する路地が出てきます。

nejishiki_013
ねじ式 013“. Licensed under CC 表示-継承 2.5 via ウィキメディア・コモンズ.
※ 肝心の場所なのにまともな写真が撮れていなかったのでWikipediaからお借りしました。

ちなみに階段を登ったこの扉の先は完全に行き止まりで、機関車はどうあがいても出てきそうにないのが印象的です。あと、現在この階段の脇には「ねじ式」の絵が飾られていますが、その絵の紹介文は思い切り「つげ義」と誤記していて、町の人のつげ氏に対する温度感を痛いほど感じました。まあよそもんですもんね。つげを求めてくる私のようなのもまた。


DSC01537

太海の対岸には「仁右衛門島」という島があります。この島の唯一の住人、平野仁右衛門さんがその昔、都から落ち延びてきたイエス・キリスト、もとい、源頼朝をかくまったという伝説があるようです。平野仁右衛門さんは今もご存命で、こちらの島に暮らされています。というかこの島全体が平野仁右衛門さんの私有地なんだそうです。

この仁右衛門島へは渡し船(上の写真では標識の陰に隠れていますが)で渡る必要があります。渡し船料金は島の観覧料金とセットで1350円です。なかなか強気な価格設定です。だてに900年近く生きてませんね。

お盆期間中、「YAZAWAの2秒」くらいの金額を稼いだ僧侶を除いてお金がないので今回は渡りませんでした。

DSC01494

山側の路地に入ると、こういう高低差のあるクネクネした道が続きます。これは路地好きは確実に濡れることでしょう。人1人が通れるかという路地が民家の合間を縦横無尽に縫うので、人の生活の密度にドキッとします。さすがにこの道入っちゃまずいかな・・・と思う箇所もたくさんありますが、目立たないところに「ウォーキングコース」とか書いてあるので「歩いていいんだ・・・」と、ホッとするやらガッカリするやらです。

DSC01531

さらに歩いていると、全く用をなさない車庫がありました。「車庫に入れる」ということを哲学的な気分で捉えられます。

さらに先に行くと「白旗神社」という神社があります。こちらは源頼朝を祀った神社ですね。千葉の人は頼朝が大好きです。行くたびに思います。

まあ、とはいっても神社に登る階段が面倒で結局スルーしたため写真はありません。代わりに鴨川漁協のケースの写真をどうぞ。

DSC01478

 

DSC01526
現役なのかなあ?

DSC01500漁港を裏側に回ると遮るものなく太平洋です。

#

たぶん、つげ義春のファンならずともこういった景色を求める層というのは一定数いると思いますが、そういう人たちの思いをズバーンといい音立てて受け止めてくれる町なのだと思います。デートにはあんまりお勧めできないですが(出くわしたらムカつくから)、一人だったり友達とぶらぶら行くにはとてもいいところです。

この太海漁港に最寄りの内房線「太海」駅は「2012年度の1日平均乗車人員は69人。乗車人員を把握できる関東のJR駅の中で最も少ない」んだそうです。そんな駅前の風景もまた、行ってみたい理由にもなりますわね。