物語(仮) その9

足が1mある直径60cmくらいの円卓の外周に沿って歯磨き粉を一条ぬぬと流す。一周して交差するところまで来たら、ひとつ内側に入って、またもう一周流す。3周目に行く手前くらいで歯磨き粉はなくなる。
翌日の朝、その円卓の歯磨き粉を始点から1cmほど歯ブラシで拾いとり、歯を磨く。その翌日も翌々日も同様にする。何日目かでカスカスになって、削りとる感じになる。


スキャッティング創世記

ティはチータカタの子なり。

ティ、ティアラを生みしのちティアララを生めり。ティアララ、ティアララルを生み、ティアララル、ティアララルンを生めり。ティアララルン、ティアララルンティアララルンを生み、ティアララルンティアララルンはティアララティアララティアララルンを生む。ティアララティアララティアララルン、タッパを生みしのちティッパを生めり。ティッパ、タッパと交合しタッパティッパを生む。タッパティッパ、トゥパを生みしのち、ティッパを生めり。トゥパ、自然発生の後、タッパティッパを名乗りティパトゥッパを生む。ティパトゥッパ、パッピドゥーを生み、タップラーブンを生む。タップラーブン、ティパティッパを生み、ティパティッパ、ティッパを生み返し、いくぶんの回顧の後、ティアララルンを生めり。ティアララルン、リアディゾンを生み、リアディゾン、リップスティックを生む。リップスティック、チップトップを生み、チップトップ、チップとデールを生む。デール、デリリアスを生む。デリリアス、リリーフランキーを生むも、リリーフランキー、リルロロロを生みながらにして死す。リルロロロ、リンリンを生み、リンリン、リンプを生む。リンプ、リンパを生み、リンパ、パッパをを生む。パッパ、ビーバッパを生み、ビーパッパと改姓す。ビーパッパ、ビーバッパッパラッポを生み、パッパッパラッポを厠に残す。しかして後、肉色の液体にて厠は満ちたり。


物語(仮) その8

姿がおかしい人に会った。

顔色は悪いし猫背。肩を落としてトボトボ歩いているかと思ったら突然両手を地面につけ、地を慈しむようにのそりのそりと歩く。その背中には妙なでっぱりがあったりする。

四つんばいになってのそりのそりと歩く彼の後ろからテレビの音声が聞こえる。

「ウミガメレイプが問題」

どうも、ウミガメをレイプするのがはやっているらしい。執拗にアップにされるあのウミガメのタマゴ生むところ。ちょっと出っ張ってて穴が開いててうねうねしているやつ。ヌメヌメとしていて妙にいやらしい。

私もなんとなくムラムラするんだけども、そのでっぱりの彼はテレビのチャンネルを変えようとする。あ、っと気づいたが、彼はウミガメと人間のあいの子だ。そうだそうだ。背中の出っ張りは甲羅じゃないのか。

彼にそう指摘すると「違う違う」といいながら首を高速で出し入れし始める。いや絶対そうだって。母ちゃんウミガメかー。ケタケタ。


物語(仮) その7

小銭投入口に100円玉を1枚と10円玉を2枚入れてコカコーラのボタンを押すと、酷い音を立てて自動販売機が倒れた。慌てて彼の上に跨り、倒れてもなおチカチカと光る腹部に両手を突っ込んで手当たり次第にまさぐると、金属のひんやりとした感触がした。これがコカコーラだなと思ってそのカチンとした曲面に手を這わせるが、いくらやっても引っかかりどころがなく表面を撫ぜるだけだ。苛立ち始めた僕がその無愛想な金属に荒々しく指をめり込ませると前方からイタイイタイと声がした。

ハッとして前を見ると彼方のトンネルに向けて延々と倒れた自動販売機が連なっている。自動販売機のチカチカとした光はいつの間にか消え、代わりに大きな血管が二筋浮き立っている。いやな予感がして背後を見るとその血管をレールにして列車がこちらに向けて猛スピードで近づいてきている。

「畜生め!」

僕は叫ぶと自動販売機から飛び退き、列車をやりすごす。途中トーン、トーンと音を立てて次々に同僚が列車から身を投げ、赤々としたはらわたを晒している。僕は悔しくなって列車に飛びついた。按配よく側面の取っ手に手を引っ掛けることができたのだけど、そのころには丁度トンネルに差し掛かっていて、自分の腕のあたりからガシリという大きくて静かな音がした。


物語(仮) その6

どうも自分の背中がどんどん巨大になっていってるようだ。

夜中になると、ぐずんず、ぐずんずという音をたてて膨張する。居間であぐらをかいていると、背中のうしろの暗がりに向け、わがもの顔で大きくなる。ぐずんず、ぐずんずの音でよく分かる。

今ではどのくらいの大きさになったのだろう。背中なんだから当然私の目には見えない。月の大きさになったか。そんなんじゃ恥ずかしい腫れ物付きと笑われてしまう。せめて皮張り太鼓程度のものであって欲しいものだ。

ただ、今ふと気付いたが、背中に大きさなんてあったか。馬鹿な妄想はやめたまえ。そう言っているそばから背中の方向からばりいんと花瓶の割れる音がした。




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