生物多様性マンション 東雲に誕生
2010.10.25 Monday 22:43
四万十川篤彦
右隣は3012号室の武川さん。先程の経験を踏まえて、ベルを鳴らして少しドアから離れて待つ。奥からゴボゴボ、ゴボゴボという音がしたかと思うとやはり激しい勢いでドアがバーンと開いた。同時に正に堰を切ったように大量の水が廊下に流れ出し始めた。
山田、とてつもない水量に飲み込まれそうになりながら、「すみません!隣に引っ越してきた山田です、これからよろしくお願いします!これ、銀座千疋屋のフルーツケーキです!」と必死で挨拶の品を差し出そうとする。しかし、よく見れば扉のところには、はみ出さんばかりの白いうねがあるのみで何の返事もない。
ぐあっとそのうねが大きく下に動いた。なるほど、これは口だ。上あごには1日4tくらいのプランクトンを捕獲するのに適した、ひげのようなものがある!まるでシロナガスクジラみたいだ!
山田は「オキアミはいませんが!」と謝罪しながらその口の中にケーキを投げ込むと、扉を急いで閉めると廊下をどうどうと流れる水を泳いで、自らの部屋に逃げ帰った。
ソファに座って気持ちをクールダウン。引越しのドタバタで気付かなかったが、静かになってみると部屋の左隣からはメーメーいってるし、左からはキュッキュキュッキュとクジラのような鳴き声がする。
さらに天井に耳を当ててみれば間断なく甲高い羽音が聞こえてくるし、床に這いつくばってみれば下の階からゲコゲコと大合唱が聞こえてくる。
ああ、自然に囲まれているような気がする!でもこれ以上挨拶に行くのはごめんだ!山田は残した上下階への挨拶を諦め、猛烈な生命力に包まれながら眠りについた。
その日から40日40夜絶え間なく雨が降り続き、東雲だけでなく全ての街は水に完全に覆われることになる。地上に住むほとんどの生命は生き絶えたらしいが、このマンションのおかげで山田ほか、このマンションに住む生命はすべて生きながらえたとのことである。
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ああ、空には虹が。生物多様性バンザイ!
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