日記
◆知ってる?
今朝、私、目を覚ましますと非常におなかが減っておりました。

いつもなら我慢をするのですが、今日だけは胃が痛いほどに「食い物を入れろ、食い物を入れろ」と主張しております。仕方なくお布団から這い出し、おぼつかない足取りで台所に向かいました。

冷蔵庫を開けると立ち上ってくる冷蔵庫の独特の臭気。これを振り払いますと、私はググっと中を覗き込みました。

賞味期限切れのチーズと賞味期限切れのマスタードしか、ございませんでした。

これは諦めろとの天からのお達しだと思い、おぼつかない足取りでお布団に戻り、再度寝ることにしました。しかし私の胃の頑是無きことといったらございません。グランジという世界の閉塞感を突き破るような胃の音が高らかに響き渡ります。

仕方ない。コンビニに行くか。

一念発起した私は(これがいかに勇気のいることであるかは言うまでもないかと思われますが)、心を吹っ切ってパジャマとして着ているジャージにコートを羽織り、サンダルを履き、意気揚々とコンビニに向かいました。

なにを買おうか。とか考えなくても決まっているんです。おにぎりが食べたいんです。猛烈に食べたいんです。なにが握られていてもいいんです。

さて、コンビニに着きましたところ、10数種類のおにぎりが私の眼前に立ちはだかりました。意味もなく指でおにぎりの名前をなぞります。

「シーチキン」

「明太子」

「韓国海苔」

「キングサーモン」

「いくら」

私の今の感覚にあっているのはいくらでございます。疑いもなくいくらでございます。理由はなくともいくらでございます。何が韓国海苔だ。凝りやがって。ふざけるな。先ほど何が握られていてもいいとか言ったのは棚に上げてしまうほどのいくらへの入れ込みようでございます。

「157円です」

157円!しかし背に腹はかえられないのでございます。162円を払って5円のおつりをもらうんです。袋は要らないんです。シールでいいんです。

手に入れたいくらのおにぎり。どっちの手で持つかといえば左手でございます。すぐさま右手で「1.ここを引く」というところが引けるからであります。そう。私には一刻の猶予もございません。早くいくらを。胃にいくらを。

コンビニからの帰路につきながら、いそいそとビニールの包装をあけます。

海苔がパリパリでございます。

いくらはまるまるでございます。

物も言わず、ほおばります。
予想通りそれなりでございます。

と思っていたそのとき、いくらが一粒ポロリとこぼれてしまいました。アッ。もったいない。ひとつの命がここに消え去ろうとしております。アアー。

しかし、アスファルトに落ちたいくらは地面に落ちて潰れるどころか、バウンドして私の腰の辺りまで跳ね返ってきたのであります。その生き生きとした動きのいくらに笑顔を見ました。

私は反射的に手を伸ばしてつかもうとしてしまいました。もちろん手は空をつかむのであります。

孝明君、由美さん、ご結婚、おめでとう。

私が君たちの結婚に際して言えるのは以上の通りでございます。偽者のいくらの方が生命の躍動を感じさせることもあるということでございます。そして、私の手はそんな偽者の生命の躍動にも近づけないのでございます。そして、もしつかめたところで強張った私の手の中にあるのは赤い液体と透明の皮でございます。

君たちの手は本物のいくらを優しく包むものであることを期待しておるのでございます。以上を持ちましてお祝いの言葉とさせていただきます。

2004-12-2 (Thu)
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