● おしゃまなプレゼント
2月某日、仕事を終え帰途に着く。
最寄の駅を降りると、チラチラと雨が降りはじめた。少しずつ濡れていく肩に今日の疲れがにじむ。今日も帰って一人、何をしよう。
ふと思い立ち、私は駅近くのケーキ店の自動ドアの前に立った。
開く扉。そして私はすぐに甘い香に包まれる。ディスプレイに並ぶタルト、パイ、そしてケーキケーキケーキ。ああ、これ。この非日常感。
実は私は甘いものはあまり得意じゃない。味自体は好きだけど、食べ過ぎると気分が悪くなるのである。でもこういう空間は嫌いじゃない。色とりどりのケーキたちが私の目を楽しませてくれる。おやつテーマパーク。ヒャッホー。高まるテンション。気づかぬうちにディスプレイに顔が接近している。
ストロベリータルトうまそう。モンブランは栗だよね。レアチーズケーキもしっとりとうまいだろうな。でもなんだか全部小さくてみみっちいぞ。四角かったりするし。扇形って何さ。恥ずかしい。
やっぱケーキ1ホールのたたずまいは素敵だ。どっしりとした円。円周にはクリームが。アーきれいだ。欲しい。ふつうのイチゴショートケーキもおいしいけど、チョコレートケーキもおいしいよね。
そんなことを考えてたら、口をついてこんな言葉が出てしまった。
「このケーキ・・・1ホールで!」
ああ。言ってしまった。緩んだ顔の25歳。しかし、店員の言葉で現実に引き戻される。
「ハイ、お誕生日ですか?」
そんな事実はございません。ございませんが、この問いにハイ、と答える私。しぼむ気持ち。続く「ネームプレートはお付けしますか」との問いにもハイ、と答えてしまう。お名前は?
「四万十川で・・・」
おめでとう私。自分の名前を告げるも、伏し目がち。店員も察したのか、誕生日で必ず必要なロウソクはいるかどうかを聞いてこなかった。おそらく違う用途に使う、と勘違いされたのだろう。
もういいんだ。私だけがいれば、私、生きていける。
こんなおしゃまなプレゼントを抱いて今日は眠るんだ。
●さて、このケーキをどうするか
いや、上では自暴自棄になっているが、抱いて寝るにはもったいない。だってケーキ。とっても甘いよね。クリームってクリーミーだよね。かわいそうだよ。
食べ方は考えてある。投稿でいただいたご意見から、「ケーキ1ホールを真ん中からほじって食べる」ことを実行しようと思っているのである。この投稿は、贅沢アンケートの中でも特に私が気になったもので、敢えて投票に出さず、ひっそりと実行しようと暖めておいたものである。
ケーキ1ホールを買うときっていうのは何かイベントがあるときと相場が決まっている。そして何かイベントがあるときっていうのは大抵誰かと一緒のことが多い。ケーキ1ホールというのは切り分けられる運命にあるのだろう。
しかし、そこを独り占め。切ったりなんてまどろっこしいことはいらない。そして、いっそのことだから普通はやらない食べ方で食べちゃうのだ。(つい興奮して「〜しちゃうのだ」なんていう恥ずかしい語尾になってしまったが、その点はご勘弁願いたい。)
想像してみる。真ん中にスプーンを突き刺す。この行為は異常な征服感を私にもたらしてくれるだろう。ああ、官能的。
そういうわけで、やってみましたよ。
食べる動画(AVIファイル3.5M)
そして食べる画像。 |