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恵比寿の「まくら とよかつ」でいっぺんに頼む。

個人的には恵比寿にはほとんど縁がないのだが、「恵比寿に行くとこの店」ってのがある。

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それが「まくら とよかつ」だ。店名から分かるとおり「まくら」の店だ。ひとまずここは、「あー、まくらの店ね」と思っていただきたい。

恵比寿駅西口からほど近くのマンション一階の一角にあって、マンションはそこそこ新しい感じなのに、この店の中だけ明らかに30年くらい老朽化している。マンションの一室に古い居酒屋の空間をそのまま持ってきて、ベターっと内側にはっつけた、そんな感じがする。

縄のれんをくぐって中に入るともうもうとした煙に出迎えられ、だらーっと奥に伸びたカウンターのどこかに案内される。

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で、好きな飲み物をたのんで待ってると、店の奥さんから容赦ない一言が浴びせられる。

 

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「焼き物の注文は一回です」

最初のところで「まくら」を強調しすぎて忘れていたが、ここはもつ焼き屋である。でも焼き物は1回しか注文できない。最初は冗談かな、とか、実は次に頼めばいいんじゃないの、店の売り上げにもなるし。とか思ったりもしたのだが、どうもやっぱり本当に注文は1回だけなのだ。

こういう店のローカルルールは好みが分かれる部分があるが、個人的にはそんなに嫌いではない。たしか、渋谷の福ちゃんっていうところで、魚の注文は1回だけっていうのがあったな。あれはまあ、量が多すぎるしな。赤羽の米山も確か1回。あそこは客が多すぎるしな。あと、門前仲町の魚三は最初の注文は刺身以外を頼むな、とか。まあ、理不尽なのもあれば仕方ないかなってのもある。なぜそのルールになったのか、チューハイを飲みながら店員の動きを見て予想するのが楽しい。

焼き物はかしら、レバ、たん、はつ、なんこつ、こぶくろ、あぶら(シロ)、そして「まくら」。1本140円だったと思うので普通の店よりちょっと高い。まくらはもうちょっと高い。

で、それをうーんと悩んで、いっぺんに頼む。腹が減っていれば右から左までずいーっと1本ずつ、とかやればいい。今回はうーん、と悩んでアブラとまくらを2本ずついっぺんに頼む。

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アブラ。基本的に串はネギ間になっている。焼き加減は絶妙である。

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そしてこれが名物のまくら。豚のどこだかの肉をたたいてたたいてニラでまいたやつ。これがめっぽううまい。こげてんじゃねえのという見た目だが、こげてはない。たぶん。

で、焼き物を頼んでひととおり食べた後は、春菊のごまよごしだとか、ブロッコリーだとか、そういったものでワインとかにごり酒を飲むというのがこの店の定石である。

さて、一通り飲み終えると店もいい時間帯。この時間帯になると新規の客もあまりこなくなる。ああ、すると主に焼きを担当しているおっさんは暇そうだ。なるほど、そういうことか。焼き物の注文1回はおっさんが暇になるためのルールなのか(当サイト独自の推測です)。

まあ、いずれにしてもそんなに長居する店ではない。さーっと飲んでさーっと出ます。

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ごちそうさまでした。

 


おごらない人

「ボクはね。」

渋谷駅のほど近くに古くからある立ち飲み屋で隣になった男性は、焼酎と氷の入ったグラスにぬるいホッピーを注ぎながら私に言った。

「今の仕事しっかりやれてると思うんスよ。」

彼は空になったホッピー瓶をグラスの上で逆さにしてピッピッとしずくを払いながら続けた。

「まあ、そんな大したことじゃないんスけどね」

10分くらい前から1人でこの店に来た私は、これまた1人で出来上がった彼の恰好の話し相手にされていた。

「でも一つだけ自信を持って言えることがあるんス」

私はチューハイをごくりとしながら横目で続けて、と促す。

「決して驕らないってことッス。これは絶対曲げてないス。就職してから自分に言い聞かせててここまで来れたんス。マジこれはみんなに言いたい。」

うん。

「俺は就職して、いろんな奴見てて分かったんス。人の言うことを聞かない、驕ったやつから落ちていく。マジ、人、謙虚にならないとダメッス。俺なんか鬼のように謙虚っす。」

鬼。

「それがみんな分かってなくて。何回俺が謙虚になれっ、先輩の言うことを聞けっつってもみんな分かんないんス。それで結局人間関係ダメにしてるんス。ほんとなんでこんな単純なことが分かんねえのか俺には分からないス!」

うん。タバコを一服。

「俺は学歴とか気にしなくて。俺のファンデーションは高校にあって。そこなんだと思うんス。学歴とかそういうの気にするからダメになるんス。俺は分かってるんス」

うん。ファンデーション。

その後、ファンデーション話にしばらく付き合って、私は二杯目のチューハイを飲み終えたところで退散することに。そのそぶりを見たところで彼は慌てて私に言った。

「いやーすんません!話に付き合ってもらって。楽しかったです。でも兄さん、全然飲んでないッスね!(笑)おれ、出します」

「うわー、いいですよ。…おごらないで。そういうのよくないんで!」

「いやいやいやいや、兄さん、それじゃあ俺の気が済まないんで!たのんます!俺のプライドが許さないんス!」

結局、徹頭徹尾おごられっぱなしで私は店を後にした。

「謙虚さ自慢」がナチュラルに抱える恐るべき自己矛盾の罠に陥った男の話である。


大井町「肉のまえかわ」はプロフェッショナルなコスト意識に裏打ちされた名店である

東京の大井町の駅から出てすぐのところに東小路という見事な路地がある。個人的には「東京野垂れ死にたい路地裏ベスト3」の中に入るんだが、その端に元肉屋、現立ち飲み屋(角打ちに近い)「肉のまえかわ」はある。

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こんな路地を歩くと端っこに・・・IMG_1963-001 こういうところがある

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東小路のはじっこなので、表は子供が元気に歩き回る。

ここは、毎日16時くらいからオープンしてすぐにイイ顔をしたおじさまたちで一杯になる。明るいうちから赤ら顔で飲みながらパチンコがどうしただの、今日の仕事はつらかっただの言っている紳士の憩いの場である。

その人気の理由の最も大きなものは安さだろう。例えば、以下の写真のメニューは「サラダ」100円、「メンチ」120円、缶ビール290円、しめて510円である。小腹と酒欲を満たすのにこれ以上ない設定ではないか。メンチは揚げ置きだが、衣が大変サクサクとしていておいしい。サラダも100円としては十分なボリュームだ。

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ビールはキリン一番搾りかアサヒスーパードライ。サラダは「ポテトサラダ」と名乗らないところがいい。

ドリンクと食事はこのような感じだ。

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なお、初めての人はちょっと戸惑うかもしれないが、店のシステムとしてはシンプルだ。参考までに簡単に紹介すると、

  • ビール等については奥にある冷蔵庫からとって、このカウンターのお姉さんの前に出す。
  • 揚げ物、刺し等はカウンターのお姉さんに頼む。
  • 焼き物は焼き場のお姉さんに注文して、焼きあがったら受け取り。
  • 食べ終えたらカウンターに皿類を返す。串は缶の中にポイ。

となる。

それにしても、薄利多売とはいってもこんなに安くてやっていけるのだろうか?私はふと疑問に思い、メンチカツの油を舌なめずりしてふき取りながら店を注意深く観察した。すると、ふむふむなるほど、この店に徹底して貫かれたプロフェッショナルな「コスト意識」があることに気付いた。

そう。どんなに安くていい店でも、どんなにそれが愛されていても利益が出ないと潰れてしまう。その点、この店は安さを実現しつつも、その徹底したコスト意識によって健全な経営を行うことでしっかりとこの街に根付き、多くの人を楽しませてきたのだ。

以下に、私を唸らせたこの「肉のまえかわ」のコスト意識の一端を紹介させていただく。

 

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南千住 大坪屋の200円

チューハイ200円。つまみも、おでんやマグロぶつなどかなりの数が200円。南千住の大坪屋は、どうしようもない飲酒家にとって頻繁に訪れざるを得ない店だ。

今日も今日とて、3品入ったおでんをつまみに炭酸のきついチューハイをグイグイ飲む。既に2杯目、でも今のところ勘定が600円。おでんは大根とはんぺんを半分くらい食べたが、ゴボ天はまだ丸のまま残っている。なかなかいいペース。このつまみであと2杯は飲める。

などと勘定したところで、70近いと思われる爺さんがひとり入ってくる。コの字になったカウンターの奥にしずしずと座り、メニューを求めて所在なさげに店内を見回す。

やがて爺さん、頼むものを決めた様子で注文しようと手を上げる。が、おばさん(お姉さん)は全く気づかない。うんうん。この店は注文するにもちょっとした努力が必要。その態度が店としてどうなのか?という問題はともかく、このやりとりを見ながら飲むのもまた一興。

私は3杯目のチューハイをつつがなく注文。心の中で「800円」とごちつつ、爺さんがまだ注文出来ていない様子なので、注文しついでにおばさん(お姉さん)に「あっちあっち」と指で示す。おばさん(お姉さん)は「分かっている」というしぐさをしてようやく爺さん前に行き、チューハイの注文を受ける。

そこで客4人来店。奥のテーブルに通される。おばさん、4人の飲み物を聞きに行くと同時に店内から、「柳川!」とか「目玉焼き!」とか注文が相次ぐ。

おばさんはおおわらわ。厨房への料理コールも慌しく、見事な手つきでターン!ターン!ターン!という音を立てながら炭酸の栓を開ける。さらに注文が入る。ああ、これは爺さんのチューハイが来ないコースだな、なんて思いながら3杯目のチューハイを半分くらいまで流しこむ。予想通り、爺さんのところにはチューハイが行くことなく、先にテーブル席に酒が置かれる。爺さんの顔も徐々に険しくなってくる。

うむ、いよいよこれはまずいコースだ!と思った途端。おばさん、爺さんの前に仁王立ち、さらに「あんた、早く注文しろよ!」と一喝。コの字カウンターに座る我々は「いや・・・爺さんさっきちゃんと注文してたし・・・」と総ツッコミ。もちろん心の中で。一様に肩を縮まらせて各々の酒を飲む。

すると爺さん、ついに堪忍袋の緒が切れて、「さっき注文しただろ!お前聞いてないのか!」と綺麗な関東弁で激怒。おばさんは「あんたのモゴモゴしてる口じゃわかんねえんだよ!」と吐き捨てて作業台に戻り、ダーン!って音を立ててグラスに焼酎を入れて、ダーン!って音を立てて炭酸の栓を抜き、その2つをダーン!って音を立てて爺さんの目の前に出して颯爽と厨房に去っていった。

爺さんチューハイを前にワナワナと震える。どうするか悩んでる。迷いつつ炭酸の瓶を手に持つ。グラスの上で180度に反転させ、激しく炭酸をグラスに注ぐ。でも途中でやめた。
席を立つ。財布を出した。ゴソゴソして木のカウンターにバーン!と大きな音を立てて手を置くと、「バカヤロウ!最悪の店だ!」と叫んで店に入ってきた時の倍の速度で出て行った。

見ると、彼の席に200円置いてあった。

私はその200円を回収するおばさんに4杯目のチューハイをつつがなく注文した。まだおでん皿にはゴボ天が1つ残っているから安心だ。